1. 用語
  2. 世界とは

歌舞伎の根底には「世界」という考え方があります。「世界」とは、ひとくちに言えば古代から中世を経て江戸時代に至るまでの長い歴史の中で人々に愛され、語り継がれてきた数多の物語が歌舞伎にとり入れられたものです。主な「世界」の個々の内容を、およそ題材となった時代の古い順に小項目に集めました。これらの物語はすべて、江戸時代の人々にはストーリーも登場人物もよく知られていて、狂言作者はそれを前提にして、新たな「趣向」を組み込むことで新しい台本を創りました。そして俳優や裏方も、たとえば「曽我物語の世界」なら五郎は荒事、十郎は和事、工藤は実悪、大磯虎は傾城、朝比奈は道化というように人物と役柄の基本設定が共有されているので、役づくりや衣裳かつらなどの準備がしやすかったのです。
もう一つの効能は、江戸時代には実際の社会的・政治的事件をそのまま脚色することが禁じられていたので、過去の「世界」に仮託して、当時の題材を芝居にすることができたことです。たとえば元禄15(1702)年の赤穂浪士の吉良邸討ち入りは誰知らぬ者もない大事件でしたが、浄瑠璃も歌舞伎もこれを「太平記の世界」の物語にして劇作しました。観客はそれをそのまま実際の事件の人々に置き換えて観ていたのです。(浅原恒男)

【図版】
初代歌川豊國「世界定(せかいさだめ)」 1803(享和3)年発行『繪本戯場年中鑑』挿画
9月12日の夜、太夫元か芝居茶屋にて、顔見世出演が決まった座頭、女形の重役(おもやく)、立作者が集まり、何の世界かを内々に定める。世界とはいずれの時代を作ろうかということ。

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