義太夫狂言の劇中で役者が人形浄瑠璃の人形を模した動きで演じるという、歌舞伎の中でも特殊な演出法のひとつ。人形の動きを誇張して表現するため、まばたきや掌の返しといった人間的な動きを極力封印し、また足腰には実際かなりの力を要しながらどこにも力が入っていないような滑らかな舞いを見せるなど、極めて高度な技と熟練が要求されます。主役のほか数人の役者が黒装束の人形遣いに扮し、さも操っているかのように演じるのも楽しく洒落た趣向といえます。多くは娘役が激情にかられた場面で、代表的なものに『櫓のお七』の八百屋お七、『日高川入相花王』の清姫がありますが、時には『本朝廿四孝』の「狐火」の八重垣姫、『神霊矢口渡』のお舟にも取り入れられます。また『阿古屋』の岩永左衛門の場合は道化がかった敵役が、いかつい人形の姿を模してぎこちなく滑稽に演じます。さらに舞踊の『三番叟』を操り人形の手法で演じる『操り三番叟』がありますが、これも人形振りの優れた応用例で、糸が絡んだために動きが止まるというリアルな演出で客席を沸かせ、そして和ませます。(金田栄一)
【写真左】
『松竹梅湯島掛額』櫓のお七 八百屋お七(中村福助) 平成21年9月歌舞伎座
【写真右】
『壇浦兜軍記』阿古屋 岩永左衛門宗近(三代目實川延若) 昭和39年11月歌舞伎座
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『松竹梅湯島掛額』櫓のお七 八百屋お七(中村福助) 平成21年9月歌舞伎座
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『壇浦兜軍記』阿古屋 岩永左衛門宗近(三代目實川延若) 昭和39年11月歌舞伎座