どうぶつ 動物

動物も小道具の一種で、実にさまざまな種類が登場する。馬や牛など、大型の動物は2人の俳優が中に入って動かす。珍しいところでは『象引』の象も出てくる。『国性爺合戦』の虎や『伽羅先代萩』床下の場の鼠、『仮名手本忠臣蔵』五段目の猪、『天竺徳兵衛韓噺』や『忍夜恋曲者』の大きな蝦蟇などは、中に俳優が1人入って演じる。同じ鼠でも、鳥や蝶など小型のものと同じように、差し金で操作するものもある。差し金で動物を動かすのも俳優の仕事のひとつで、普通は黒衣である。馬は中に入る2人の息がぴったり合うことが大事で、上に人を乗せて動くことも多いため、かなりの体力と技術を要する。馬が出てくる演目は多いが、中でも『一谷嫩軍記』組討の場で熊谷直実・平敦盛が馬に乗って戦う場面は馬にも相当な体力と演技力が必要となる。
その他、想像上の生き物である龍は『祇園祭礼信仰記』金閣寺の場や『鳴神』で、大蛇は『日本振袖始』などで、化け猫は『南総里見八犬伝』で登場する。鳥類も『積恋雪関扉』や『楼門五三桐』の鷹や『菅原伝授手習鑑』道明寺の場の鶏などが差し金で使われる。また『義経千本桜』や『玉藻前曦袂』などでは狐が大活躍する。(橋本弘毅)

【写真】
歌舞伎で登場する猪