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みますや ひょうご 三升屋兵庫

江戸歌舞伎の華“荒事(あらごと)”を生み出し、自ら演じた名優

1660(万治3)年 ~ 1704(元禄17)年2月19日

【略歴 プロフィール】
三升屋兵庫は、歌舞伎俳優初代市川團十郎の狂言作者としての筆名です。初代市川團十郎は、1673(延宝1)年9月、江戸中村座において市川段十郎(のちに團十郎と改名)を名乗って初舞台を踏みます。1685(貞亨2)年に『金平六条通(きんぴらろくじょうがよい)』で坂田金平を演じましたが、これが荒事の始まりとみられています。
やがて初代團十郎は、御霊信仰(ごりょうしんこう。非業の死を遂げた者の魂を崇め、鎮めることで平安を得ようとする信仰)から生まれた曽我五郎や鎌倉権五郎といった超人的人物や、不動明王などの神仏に自ら扮して舞台に登場し、江戸の人々に絶賛されます。こうした人知を超えたキャラクターを劇的に演じることにより、俳優としての地位を確立しました。
團十郎自身が自ら作り演じたその作品群は、のちに七代目團十郎が選定した歌舞伎十八番の原型となりました。初代團十郎が演技ばかりでなく劇作も重視していたことは、「武士の文武と役者の狂言しこなし、おもへば車の両輪にひとし、一方かけても思ふ所にはゆくまじ。(武士は文武両道に通じていることが望ましいように、狂言と俳優の演技は例えていうなら車の両輪にも等しいもので、どちらかが欠けても思うような成果は得られないだろう)」と自ら願文に書いていることからもうかがえます。
名実ともに江戸歌舞伎の第一人者として、絶大な人気を誇っていましたが、1704(元禄17)年2月19日、市村座で『わたまし十二段(わたましじゅうにだん)』に出演中、役者の生島半六(いくしまはんろく)に舞台で刺され、44歳で亡くなりました。 

【作風と逸話】
初代團十郎が活躍した元禄時代、京坂では初代坂田藤十郎が上方らしい柔らかみのある演技で人気を得ていました。團十郎は、江戸での人気を買われ1693(元禄6)年から1695(元禄8)年にかけて上洛し京で公演しますが、あまり評判を得られず、上方と江戸の観客の好みの違いを強く意識するようになったようです。この経験から、團十郎は江戸にもどってから亡くなるまでの約8年間に、荒事の独自の芸風を活かすために、江戸の民衆のエネルギーと祈りの心を反映し、派手な衣裳や隈取など視覚的効果を取り入れた荒唐無稽ともいえる、豪快でスペクタクルな舞台を作ってゆきました。

初代團十郎は非常に信心深く、毎日さまざまな神仏への礼拝を欠かさなかったといいます。成田不動尊に願掛けして授かったという息子、市川九蔵(いちかわくぞう。のちの二代目團十郎)の初舞台1697(元禄10)年5月中村座の『兵根元曽我(つわものこんげんそが)』では、自らは不動明王から超人的な力を与えられた曽我五郎に扮し、不動明王を演じた九蔵とともに舞台にたちました。この舞台は大人気となり、日に十貫文もの賽銭が客席から投げ込まれ、公演後成田山にお礼に詣でた團十郎父子は、幕、神鏡と賽銭五百貫文を奉納し、以後“成田屋”の屋号を使うようになったと伝わっています。これが現在まで続く歌舞伎俳優の屋号の始まりといわれます。
また狂言作者三升屋兵庫として脚本を書くにとどまらず、俳句も能くし椎木才麿(しいのもとさいまろ。井原西鶴の弟子で当時大坂俳壇の中心人物)のもとに入門し、七夕狂言で演じた牽牛にちなんで“才牛(さいぎゅう)”という俳号を贈られています。歌舞伎俳優で俳号をもったのもこの團十郎が初めてです。(飯塚美砂)

【代表的な作品】
門松四天王(かどまつしてんのう) 1684(貞享1)年3月                      
参会名護屋(さんかいなごや) 1697(元禄10)年1月 ※鞘当(不破)を描いた芝居
兵根元曽我(つわものこんげんそが) 1697(元禄10)年5月
源平雷伝記(げんぺいなるかみでんき) 1698(元禄11)年9月
当世小国歌舞伎(とうせいおくにかぶき) 1699(元禄12)年11月
傾城王昭君(けいせいおうしょうくん)1701(元禄14)年1月
星合十二段(ほしあいじゅうにだん) 1702(元禄15)年2月
新版高館弁慶状(しんぱんたかだちべんけいじょう) 1702(元禄15)年7月
成田山分身不動(なりたさんふんじんふどう) 1703(元禄16)年4月
小栗十二段(おぐりじゅうにだん) 1703(元禄16)年7月

※本文中にある『金平六条通(きんぴらろくじょうがよい)』、『わたまし十二段(わたましじゅうにだん)』は團十郎の著作ではありません。

【舞台写真】
『浮世柄比翼稲妻~鞘当(の場)』[左から]名古屋山三元春(坂東三津五郎)、不破伴左衛門(中村橋之助)平成23年1月新橋演舞場
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