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母のまごころ~一条大蔵譚

常盤御前は清盛の側室となった後、一条長成(いちじょうながなり)の妻となります。長成は1157(保元2)年に大蔵卿の地位に上った公家でした。
「鞍馬天狗と鬼一法眼」の項で取り上げた浄瑠璃『鬼一法眼三略巻』の四段目は、現在の歌舞伎では『一条大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)』として上演されていますが、ここではこの義経の継父一条大蔵卿が主人公として描かれています。鬼一の次弟で源氏に心を寄せる吉岡鬼次郎(きじろう)とお京の夫婦は、大蔵卿の北の方となっている常盤御前の真意を探るため、屋敷に潜入します。楊弓に興じている常盤の姿を見て憤り、彼女を叩いてしまう鬼次郎でしたが、常盤が楊弓の的の下に清盛の肖像を隠し、密かに平家調伏を祈願していたことが判明します。そして、大蔵卿も実は聡明な人物でありながら、平家を欺くために阿呆のふりをしていたこと、実は源氏の血筋を引き、源氏に心を寄せていることが明らかになるのでした。
とこのように『鬼一法眼三略巻』は、三段目では鬼一法眼、四段目では一条大蔵卿と常盤御前といった人々が、清盛が絶大な権力を誇る時代にあって、源氏と平家の狭間で苦心する様が描かれています。しかし、現在の歌舞伎では鬼一法眼に関わる場面は前半部分のみが上演されることが多く、一方原作の文楽では四段目は上演されなくなってしまっており、作品全体の構図を知ることが難しくなっているのは、残念です。(日置貴之)


【写真上】
『一條大蔵譚』[左から]鬼次郎女房お京(片岡孝太郎)、常盤御前(中村時蔵)、吉岡鬼次郎幸胤(尾上菊之助) 平成27年10月歌舞伎座

【写真下】
『一條大蔵譚』一條大蔵長成(中村吉右衛門) 平成28年9月歌舞伎座
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