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箏は黒御簾や舞踊の舞台で演奏されるほか、舞台で俳優が弾くこともあります。代表的な演目は『壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)~阿古屋琴責』。五條坂の遊君阿古屋が恋人である平家の武将・悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)の行方を問い詰められる場で、箏と胡弓、三弦を演奏させられます。『生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)』では、秋月の息女深雪が恋人を追って盲目となり、「島田宿の場」で瞽女(ごぜ)朝顔になって箏を弾きます。
箏と琴は別の楽器で、琴は古墳の埴輪にもある日本古来の楽器です。箏は江戸時代初期に八橋検校(やつはしけんぎょう、1614-1685)が筑紫箏を改良して現在の箏の基本を整えたといわれます。箏と琴の一番の違いは、箏は13本の弦を柱(じ)で支えて音程を調整するのに対し、琴には柱がないことです。しかしその箏の柱を琴柱(ことじ)といい、また箏の演奏に使う爪を琴爪(ことづめ)というのでややこしいのです。元禄期に活躍した生田検校(いくたけんぎょう)を祖とする生田流の系統と、18世紀後半に江戸で活躍した山田検校(やまだけんぎょう)を祖とする山田流の系統があります。近年の歌舞伎では、生田流の前田白秋(まえだはくしゅう、1900-1963)とその跡を継いだ川瀬白秋(かわせはくしゅう、1930-2013)が、長く担当してきました。現在は川瀬白秋の後継者・川瀬露秋(かわせろしゅう)とその一門が箏の演奏を担当しています。そのほか長唄『黒塚(くろづか)』の「月の段」など、近代に創作された舞踊では中島靖子(なかしまやすこ)らの正派邦楽会が出演しています。(浅原恒男)

【写真】
『壇浦兜軍記』遊君阿古屋(坂東玉三郎) 平成19年9月歌舞伎座