どこまでも悪人と見えていた人物が実は深い事情を背負った善人であった・・・といったストーリー展開や役柄がよく登場しますが、これはその隠していた本性や本心に戻るといった意味合いからモドリと呼ばれます。多くの場合腹を切るか刺されるかして死ぬ間際に本心が明かされ、その恩を受けた人々に見守られながら哀れにも落ちてゆくといった場面が作り上げられます。このモドリは最後のいわばどんでん返しが眼目ですので、そこに至る芝居の途中でその本心をみせる、いわゆる「底を割る」演技をしてはいけないと古くから戒められていますが、近年は時として演ずる俳優によってわずかな工夫がみられる場合もあります。代表的な役としては『義経千本桜』の「すしや」の権太、『実盛物語』の瀬尾十郎、『摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』の玉手御前などが挙げられます。(金田栄一)
【写真】
『義経千本桜』すし屋 [左から]若葉の内侍(市村萬次郎)、弥助実は三位中将維盛(中村時蔵)、鮓屋弥左衛門(市川左團次)、娘お里(中村梅枝)、いがみの権太(尾上菊五郎)、弥左衛門女房おくら(市川右之助) 平成26年11月歌舞伎座
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『義経千本桜』すし屋 [左から]若葉の内侍(市村萬次郎)、弥助実は三位中将維盛(中村時蔵)、鮓屋弥左衛門(市川左團次)、娘お里(中村梅枝)、いがみの権太(尾上菊五郎)、弥左衛門女房おくら(市川右之助) 平成26年11月歌舞伎座