ろっぽう 六方<六法>

六方は歌舞伎における歩く芸の代表格。六法とも書きます。『勧進帳』弁慶の幕外の「飛び六方」が特に有名ですが、手足を力強く大きく動かして歩き方を誇張し様式的に表現します。動きの基本は「なんば」と呼ばれるもので、右手と右足、左手と左足が出るという古来の日本人の特徴的な動作です。六方の語源については様々あるようですが、一説では江戸の「六方組」と称する「ならず者」たちの気取った歩き方、また「天地東西南北」の六方向に手足を動かすからという説も有力です。六方はその足使いから「踏む」と表現されますが、手の動作を指して「振る」ともいわれます。
六方の元祖といわれるものに「丹前六方」があり、『鞘当』の名古屋山三と不破伴左衛門がゆったりと優雅な歩きを見せますが、これは風呂屋の湯女を目当てに派手な丹前姿で大仰な風体と仕草で闊歩した旗本奴たちの動作を模倣したといわれます。飛び六方が使われる役は『勧進帳』弁慶の他に『鳴神』の鳴神上人、『車引』の梅王丸、『国性爺合戦』の和藤内などがあり、また『義経千本桜』「鳥居前」の狐忠信は狐の仕草を取り入れた「狐六方」で、力強さと同時にちょっと怪しげな狐の本性を垣間見せます。(金田栄一)

【写真】
『鳴神』鳴神上人(坂東三津五郎) 平成17年1月歌舞伎座