歌舞伎は江戸時代に作られていますので、その構成や物語には、当時の習慣や物の価値が見え隠れしてきます。旅をするには主に江戸と京などを結ぶいくつかの街道とそこに点在する宿場が頼り、もちろん現代のような交通機関はなく、わずかに馬や駕籠があるものの多くの通行手段は徒歩です。江戸時代には誰でも自由に旅が出来たわけではなく、病気治療あるいは身内の火急の用事など相応の目的を申し出た上で奉行の許可が必要でした。そこで多くの人に重宝したのが「お伊勢参り」「こんぴら参り」などのお参りですが、実際芝居の中にもよく登場します。
時刻を表わす単位には「四つ」「七つ」などの数字と「子」「丑」といった干支でおなじみの言葉が使われますが、夜明けの「明け六つ」と日暮れの「暮れ六つ」、そして午後零時にあたる「九つ(午)」を基本に覚えておくとよいでしょう。
通貨は芝居上では「五十両」「百両」と大げさな大金ばかりが登場しますが、「分(ぶ)」「朱(しゅ)」「文(もん)」といった小さな単位も時折せりふに登場しますので、少し知っておくと楽しさも増します。(金田栄一)
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『伊賀越道中双六』沼津 [左から]荷持安兵衛(中村歌昇)、呉服屋十兵衛(中村吉右衛門) 平成22年9月新橋演舞場