歌舞伎の髪型は、おおよそは江戸時代の風俗に準じており、各部の基本的な名称は一般の「日本髪」と同じです。髪型の見分け方のコツは、まず髷(まげ)、髱(たぼ)、鬢(びん)、前髪の4つのパーツに分けて見ること。それぞれに、形のバリエーションがあります。
まずは、形を見分けやすい髷(まげ)から注目しましょう。髷は、髪を元結と呼ばれる紐で一つにまとめて形を作っている部分をさします。形、太さがさまざまあることはもちろん、根(髷の根元の部分)の高低や髷が折れ曲がった部分の角度など、役によって実に細かな決まりがあります。立役の髷は、役の性格を表現する意味合いが強く、種類も多くあります。女方の髷は、美しさに重点が置かれていますので、その芸術的な形を楽しみましょう。
髱(たぼ)は、後頭部の下の方に張りだした部分。目立たない部分ですが、歌舞伎のかつらでは重要な意味を持ち、立役、女方ともにそれぞれ大きく2系統あります。立役では、後頭部の髪を油で平たく固めた油付(あぶらつき:図①)と、髪をふくらませた袋付(ふくろつき:図②)の二種類。油付は侍の役、袋付は町人が多いようです。
女方では、お姫様などが登場する時代物の演目では丸髱(まるたぼ:図③)、日常世界を描いた世話物では一般の人たちの髪型に近い地髱(じたぼ)が多いのですが、形の差はわずかです。客席から見分けるのはなかなか難しいのですが、そういう区分けがあることを知識として知っておくとよいでしょう。
鬢(びん)は、頭の左右側面の髪。横方向の張り具合(ふわっとふくらますか、ぴたっとひっつめるかなど)や縦方向の長さ、形など、役の決まりに従いながら、俳優の顔立ちとのバランスをみながら形を作っています。
前髪については、立役の場合に前髪があるのは元服前の若者の印(図②は、町人の若者)であることを覚えておくと、役の年齢を知るのに役立ちます。(田村民子)
【イラスト】
中川未子 画