てがみ・しょめん 手紙・書面

舞台で使われる手紙は、狂言作者が文字を書いて準備する。手紙は大事な連絡手段として、さまざまな場面で登場する。恋心(時には邪恋)を訴える恋文、表だってできない連絡をとるための密書、死を覚悟して事件の真相を書き残すための書き置き、女房を離縁するための去り状など、状況によってさまざまな呼び方がある。『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』で、細川勝元が入手した悪人方の密書の断片を巧みに使って仁木弾正らを追い詰めていくように、物語上、重要な意味を持つことも多い。『法界坊』では、法界坊はおくみが要助に宛てて書いた恋文を証拠に邪魔な要助を追い出そうとするが、道具屋甚三によって自分がおくみに書いた恋文にうまくすり替えられ、かえって恥をかかされるという面白い場面がある。
手紙は普通、巻紙に毛筆で書かれるため、全部広げるととても長いことが多い。ことに女からの文は「参らせ候」と丁寧に書くので長くなる。遊女が客に手紙を書くときには、上端に紅で色をつけた天紅(てんべに)と呼ばれる紙が使われる。色っぽさが出るため、舞踊でも使われることがある。
その他、金や物の貸し借りや身売りの年季の証拠となる証文や、ひとつの目的のために集まった仲間の署名を集めた連判状(血判状)、遊女が客と取り交わす起請文、子どもの産まれた年月日や親の姓名を書いた臍の緒書き(ほぞのおがき)、刀剣など貴重な品の見究めを証明する折紙(おりかみ)なども芝居によく登場する小道具である。(橋本弘毅)

【写真】
天紅の手紙を広げる松山太夫
『二人椀久』松山太夫(坂東玉三郎) 平成28年12月歌舞伎座