人物の登退場に使われる曲には二つの用途があります。一つはその人物を表わすこと、もう一つはある人物の登退場によって舞台の局面が変わることです。人物につく場合は、武士なら武張った「序の舞」や「太鼓謡」。初心な娘なら「初恋の花もの言わぬ…」(長唄「桜狩」の一節)。お姫さまなら「露の情にだまされやすく」。男伊達なら「人に立てられ」など。ある人物の登場で局面が変わる場合には「浪音」や「山おろし」「雪音」や「在郷唄」「舟唄」「騒ぎ」、あるいは鐘の音などをあしらいます。御殿の場などで人物の退場に唄われる「甲唄(かんうた)」(「伊予の湯桁の数さえ歌に……」など)は場面転換の効果が含まれています。(浅原恒男)
【写真】
『曽我綉侠御所染』 平成29年6月歌舞伎座
男伊達の御所五郎蔵が子分たちを連れて仮花道から、星影土右衛門が門弟たちをつれて本花道からの出に、黒御簾の「魁(さきがけ)の梅を兄とやいう筑波……」の唄入り合方になる。
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『曽我綉侠御所染』 平成29年6月歌舞伎座
男伊達の御所五郎蔵が子分たちを連れて仮花道から、星影土右衛門が門弟たちをつれて本花道からの出に、黒御簾の「魁(さきがけ)の梅を兄とやいう筑波……」の唄入り合方になる。