どくぎん 独吟

黒御簾音楽の手法の一つで、しっとりとした場面あるいは寂し気な場面で登場人物の愁いのある演技に合わせて唄方一人、三味線方二人で演奏する部分をいい、「めりやす」もその一種ですが、芝居独自に作られたものも数多くあります。有名な独吟に『東海道四谷怪談』でお岩の髪梳きの場面で唄われる「瑠璃の艶(るりのつや)」(「竹垣の…」)、『仮名手本忠臣蔵~七段目』で遊女おかるが手紙を書く場面での「小夜千鳥」(「父よ母よと…」)、『妹背山婦女庭訓~御殿』でお三輪がいじめの官女に脾腹を打たれて悶絶する場面での「女気(おんなぎ)」(「松風の便りもがなと…」)などで使われます。演奏方法は、たとえば『四谷怪談』では、お岩が宅悦に化粧道具を持ってこいと命じるのが一の句のかかり、母の形見の櫛をみて「おお、そうじゃ」と髪梳きになると二の句にかかり、宅悦とのせりふのやりとりで三の句、最後に髪を上げて後ろに手を突いて顔を見せるのが上げ句になる、というように俳優の演技の進行に合わせて演奏していきます。(金田栄一/浅原恒男)

【写真】
『仮名手本忠臣蔵』七段目 遊女おかる(中村芝雀) 平成25年11月歌舞伎座
大星由良之助に請け出されると聞いて喜ぶお軽が、父母と夫の勘平に知らせの手紙を書く場面で「小夜千鳥」の独吟「父よ母よとなく声きけば、つまにおおむの写せし言の葉、ええ何じゃいな……」が使われる。