とがきじょうるり ト書き浄瑠璃

ト書きとは、脚本中の「せりふ」の前後で人物の動きに伴い「ト、思入れあって」など状況を説明する部分のこと。必ず「ト」が頭に付いているところからこう呼ばれます。人形浄瑠璃から歌舞伎に取り入れられた義太夫狂言と違い、はじめから歌舞伎狂言として書き下ろされた作品の一部に、竹本連中による義太夫節の語りの技法を応用したものをト書き浄瑠璃といいます。文化文政期に大坂で流行し、江戸では三代目瀬川如皐が『東山桜荘子(ひがしやまさくらのそうし)~佐倉義民伝(さくらぎみんでん)』や『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』で使ってから流行します。その後、二代目河竹新七(黙阿弥)が初めて名人四代目市川小團次と組んだとき、小柄で風采の上がらない小團次の芸風を活かすために『都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ)』梅若殺しの場で竹本を使って成功し、以後、『小袖曾我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)~十六夜清心(いざよいせいしん)』など小團次と組んだ作品で多用しました。黙阿弥門下の竹柴其水も『神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)~め組の喧嘩』辰五郎内の場でこの技法を使っています。(浅原恒男)

【写真】
『東山桜荘子』[左から] 木内宗吾(松本白鸚)、女房おさん(中村七之助) 平成30年10月歌舞伎座