ではとひっこみ 出端と引っ込み

重要な人物の花道からの登場を表わし、またその時の音楽を指して使われます。古くは六方などの派手なしぐさを交えて登場しましたが、次第に六方は主に引っ込みの演技に用いられるようにと変わってゆきました。今日では「出端」といえば専ら「助六」が花道から登場する場面に限定して使われることが多くなっています。
いっぽう、芝居の途中あるいは幕切れで、登場人物が花道を使って引っ込む場面はとりわけ印象的です。その演出をとくに「引っ込み」と呼びます。単にストーリー上の段取りではなく、そのわずかな時間の中に、その役者あるいはその役のあらゆるものが凝縮され、観客に大きく印象付ける極めて重要な瞬間となっています。『勧進帳』の弁慶の花道の引っ込み、また『伽羅先代萩』の仁木弾正が花道揚幕を見据えて悠然と引っ込む様など、それまでの紆余曲折のドラマをまさしくこの引っ込みの人物が一身に背負って表現し、観客の目の奥にその残像を残すのです。(金田栄一)

【写真左】
出端
『助六由縁江戸桜』花川戸助六実は曽我五郎(市川海老蔵) 平成25年6月歌舞伎座

【写真右】
引っ込み
『伽羅先代萩』仁木弾正(中村吉右衛門) 平成21年4月歌舞伎座