みちゆき 道行

元来の意味は道を行くこと、すなわち旅をすることを指しますが、歌舞伎の道行はおもに恋仲の男女が連れ立って旅をする様子を描いた舞踊劇として演じられます。それも多くは駆け落ちあるいは心中などのように、嬉しさや温かさの中にもどこか愁いを秘めた場面として描かれています。
代表的な『義経千本桜』の「道行初音旅」は静御前と佐藤忠信(実は源九郎狐)が主従であって恋人ではありませんが、「女雛男雛」の振りを見せてほのかな恋心も表現され、『仮名手本忠臣蔵』の「道行旅路の花聟」はおかる勘平が主君への不忠を詫びつつ恋の逃避行を見せます。『曽根崎心中』ではお初と徳兵衛が共に手を取り合い死出の旅路へと進んで行きます。道行の男女はおおむね女性が主導となり男性はむしろ受け身という、社会通念と異なって描かれるのもひとつの特徴でしょう。(金田栄一)

【写真】
『仮名手本忠臣蔵』道行旅路の花聟 [左から]腰元お軽(中村時蔵)、早野勘平(尾上菊五郎) 平成21年11月歌舞伎座