古くは綱、現代ではワイヤーロープを使って役者を吊り上げ舞台上や客席の上を飛ぶという、演出効果の極めて高い手法。江戸時代の芝居では仕掛けのひとつとして宙乗りも様々な工夫がなされ、幕末期の四代目市川小團次が得意としていましたが、明治以降はこのような奇をてらった演出がケレンと呼ばれて敬遠されたため次第に消滅してゆきました。その後の上演では初代市川右團次(後の斎入)が関西で継承、『加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)』で「ふわふわ」と称される舞台上の宙づりや石川五右衛門の「つづら抜け」などがありました。昭和40年代に三代目市川猿之助(現・二代目猿翁)が『義経千本桜』の「川連法眼館」でワイヤー・鉄骨を使った大規模な機材を導入し、大劇場の花道の上を狐忠信が飛び、三階席の奥へ消えるという大胆な演出を可能にして人気を博しました。今日ではスーパー歌舞伎を含む様々な演目に応用され、客席上を斜めに横断することも可能になりました。また歌舞伎以外の多くの演劇ジャンルにも影響を与え広く普及しています。(金田栄一)
【写真】
『義経千本桜』川連法眼館 佐藤忠信実は源九郎狐(市川猿之助) 平成28年6月歌舞伎座
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『義経千本桜』川連法眼館 佐藤忠信実は源九郎狐(市川猿之助) 平成28年6月歌舞伎座