ほんみず 本水

舞台上で本物の水を使い、雨を降らせたり川や池の中で立廻りを演じたりする、その場面あるいは水そのものを指します。本水は江戸時代の夏芝居からしばしば使われ、「怪談」「早替り」などと共に涼味を呼ぶ演出として夏芝居のおなじみとなってきました。近年は本舞台に巨大な水槽を埋め込んで水中での大立廻りを演じたり、時には舞台中央に大きな滝が出現するなど視覚効果と臨場感が高められ、最前列の観客にビニールを配る例も増えています。また『名月八幡祭』では幕切れ近くに本格的な雨を舞台に降らせますが、この場合は「本雨」と呼ばれます。別の例では『助六』の「水入り」があり、水をいっぱいに張った天水桶の中に助六が全身を沈めて隠れ、舞台に水をあふれさせます。江戸歌舞伎を代表する華やかで大らかな舞台が、さらに劇的なクライマックスを迎えることになります。(金田栄一)

【写真左】
『名月八幡祭』[左から]芸者美代吉(中村福助)、縮屋新助(坂東三津五郎) 平成22年7月新橋演舞場

【写真右】
『怪談乳房榎』うわばみ三次(中村勘九郎) 平成26年8月歌舞伎座