能舞台を模した松羽目、すなわち正面に大きな根生いの老松、左右に竹が描かれた舞台で演じられる舞踊劇で、衣裳や演技も能の形式を踏襲しています。ただし能舞台の正面は鏡板と呼ぶのが普通。松羽目は歌舞伎では大道具です。江戸時代において歌舞伎は格の高い能の舞台やその演技手法を真似ることが出来ませんでしたが、七代目市川團十郎が『勧進帳』の初演で画期的にそれを実現させ、明治以降、歌舞伎の高尚化と共に多くの松羽目物が創られています。五代目尾上菊五郎による『土蜘』、九代目市川團十郎による『船弁慶』をはじめ、『連獅子』など数々の松羽目物が今日も人気を呼んでいますが、同様に能の手法を用いながらも『紅葉狩』などは独自の舞台装置が工夫され、松羽目物とは呼びません。『茨木』は題材は古典ですが、能にはありません。歌舞伎独自の松羽目物です。(金田栄一)
【写真】
『勧進帳』[左から]武蔵坊弁慶(市川染五郎)、番卒軍内(松本高麗五郎)、番卒兵内(實川延郎)、番卒権内(中村吉三郎)、富樫左衛門(松本幸四郎)、太刀持音若(松本金太郎) 平成26年11月歌舞伎座
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『勧進帳』[左から]武蔵坊弁慶(市川染五郎)、番卒軍内(松本高麗五郎)、番卒兵内(實川延郎)、番卒権内(中村吉三郎)、富樫左衛門(松本幸四郎)、太刀持音若(松本金太郎) 平成26年11月歌舞伎座