せめとせっかん 責めと折檻

責めとは、弱者の立場にある主人公が苦痛を受けて困難な状況に立たされ、その苦悩の姿を見せ場とするという、文化文政期以降の歌舞伎にみられるサディスティックな表現法。『明烏(あけがらす)』の浦里は雪中の責めで、その冷酷さは見る者を震撼とさせます。『曽我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)』には、愛妾の時鳥が義母百合の方に責め殺される凄絶な場面があります。
『壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)』の阿古屋琴責めは物理的な責めではなく、琴・三味線・胡弓を演奏させ、そこに乱れが生じるか否かで本心を探るというかなり特異な手法です。
いっぽう、折檻は親が子を、主人が家臣をなど、強者が弱者に向かって戒めのために叩いたりして懲らしめることですが、『仮名手本忠臣蔵』六段目では母おかやが、舅殺しと疑った勘平を折檻して追い詰めます。『菅原伝授手習鑑』の「道明寺」では母の覚寿が苅屋姫を杖で打つ「杖折檻」の場面があります。また『勧進帳』で弁慶が義経を金剛杖で打つのも、関所を通るための演技ですが折檻の一種といえるでしょう。(金田栄一)

【写真】
『菅原伝授手習鑑』道明寺 [左から]苅屋姫(片岡孝太郎)、太郎女房立田の前(片岡秀太郎)、丞相伯母覚寿(中村芝翫) 平成18年3月歌舞伎座