だんまり だんまり

暗闇の中で繰り広げられる無言劇の形態で、いかにも歌舞伎独特の演技様式といえます。場面は主に山中の古い社(やしろ)など不気味な場所、月明かりさえなく一寸先も見えない暗闇にどこからともなく様々な役柄の人物が現れて、宝物などを奪い合うといった形がお決まりです。互いに相手の着物や刀に触れてハッと手を引っ込めたり、ぶつかりそうになって身をかわしたりと、ややコミカルな仕草も含まれ、手探りでゆっくりと動作をする様子が描かれます。登場人物たちはお互いが見えないけれども、観客にはすべて見えています。またこの場で奪い合った宝物や証拠品、絡み合った人物関係などの謎が後に解き明かされる場面を「だんまりほどき」といいます。
長いお芝居の中で、この「だんまり」の場面だけは前後のストーリーとは無関係に多くの人物がいきなり舞台に登場することが認められています。これは「だんまり」が元来「顔見世狂言」の一つの場面として演じられ、座頭(ざがしら)や一座の人気役者をお客様にご披露する趣向として演じられてきたからです。
後年になると『東海道四谷怪談』の「隱亡掘(おんぼうぼり)」や『盲長屋梅加賀鳶』の「捕物」の場など、ストーリーを運んでゆく一場面として演じられる「世話だんまり」の手法が生まれてきました。幕末の人気作品『青砥稿花紅彩画』には、のちの五人男の展開を予想させる「だんまり」の場面があります。
これを独立した一幕物にしたものを「御目見得だんまり」と呼び、演技の形態としては「時代だんまり」に属しますが、同様のものに『鞍馬山のだんまり』『宮島のだんまり』といった演目があります。
なお「だんまり」の漢字表記には主に「暗闘」が使われます。 (金田栄一)

【写真】
『青砥稿花紅彩画』[左から]日本駄右衛門(市川團十郎)、赤星十三郎(中村時蔵)、弁天小僧菊之助(尾上菊五郎)、忠信利平(坂東三津五郎)、南郷力丸(市川左團次) 平成20年5月歌舞伎座