せわもの 世話物

「世話物」と呼ばれる演目は江戸時代の町人社会を描いたもので、江戸時代でいえば当時の現代劇にあたります。登場するのは江戸の町のどこにでもいる職人たちや長屋の衆などが多く、中には実際に起きた事件が劇化される場合もありました。演技やせりふもどちらかというと日常会話に近いので、現代の観客が見てもあまり違和感を持たないですみます。演技法で「世話に演ずる」というのは、やや淡白にさらりと演ずるといったニュアンスがあるでしょう。世話物では身につまされるような貧困な中でのさらなる悲劇を描くことも多いので、芝居の世界に限らず、日常会話でもそのような状況を「世話場」と呼ぶことがあります。(金田栄一)

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『与話情浮名横櫛』[左から]切られ与三郎(市川染五郎)、妾お富(中村福助)、和泉屋多左衛門(中村歌六) 平成22年1月歌舞伎座