女殺油地獄 オンナコロシアブラノジゴク

観劇+(プラス)

執筆者 / 小宮暁子

野崎観音

元禄時代、野崎観音で行なわれる有縁無縁全てのものに感謝の経を捧げる無縁経法要が庶民の間で人気を集めていた。現在でも毎年5月1日から10日まで法要が行われている。

節季ここに注目

商人に大切な決算期。掛で売買した代金を払う側、集める側、節季には悲喜こもごものドラマが見られたようで、落語の題材にも見られる。時代によって年末の1回だったり、2回、4回のこともあった。この事件は5月5日の節季の一日前に起こった。

不義になって貸して下され

お吉に借金を断られた与兵衛は「不義になって貸して下され」と迫る。その時のきらきらした眼付は二人の関係に危ない匂いをかもしだす。町内の同業の内儀。子供は三人あってもまだ残んの色香があり、日頃自分に好意的な女性。かたや、近所の放蕩息子。しかし自分にはなついていて、ちょっとした甘えがみえるのは可愛くないこともない。二人の潜在的な微妙な感情は「不義」につながりかねない危うさをはらんでいるとする見方もある。

江戸時代の通貨ここに注目

江戸時代には、金、銀、銅の三種類の通貨が流通した。江戸は金が基本だったが、大坂は銀が主流。寛永ごろには、金1両が銀60匁(もんめ)、これは銅銭で4貫(4000)文(もん)に相当すると決められていたが、換金相場は時代によって大きく変わった。享保の頃の相場では、銀1匁は銅銭約96文と考えられ、与兵衛の借金200匁に対して、親たちが用意した800文は、20分の1にもならない額だった。例えるなら200万円の借金があるところに、10万円に満たない金を融通してもらったようなもの。親心は胸にこたえても、どうにもならない借金のことで与兵衛のあたまは一杯だったのだ。