白浪(しらなみ=盗賊)五人男が織りなす悪の華。色彩美・音楽美にあふれた歌舞伎屈指の名場面。お供を連れた美しい武家娘が、呉服店浜松屋で万引きの疑いをかけられ、額に傷まで負わされてしまう。しかし疑いは晴れ多額の詫び金を受け取って帰ろうとするところを、奥座敷にいた侍が呼び止め、予想もしない事実が明らかに…。
鎌倉雪の下の浜松屋に、若党四十八(よそはち)を供に連れた美しい武家娘が現れる。早瀬主水(はやせもんど)の息女お浪と名乗り、婚礼支度の買い物をする彼女は、品物を選ぶうちに、そっと鹿子(かのこ)の裂(きれ)を懐中した。
取り返しのつかない過失に、青褪める店の者たち。若旦那の宗之助が四十八に詫びるが、四十八は店主浜松屋幸兵衛を相手取る。お浪につけられた額の傷を言い立て、法外な金を要求する四十八に対し、浜松屋に呼ばれた鳶頭も憤慨して啖呵を切る。しかし幸兵衛は事を穏便に済ませるため、四十八の言うとおり百両を出して詫びるのであった。
金を受け取り帰りかかるお浪と四十八を、店の奥に居合わせた玉島逸当(たましまいっとう)という侍が呼び止めた。逸当は二人を騙りと見抜き、更にはちらりと見えた腕の刺青(ほりもの)を証拠に、お浪を男と見破る。図星をさされた二人は、急に伝法なその正体を現すのだった。
女装の盗賊は江ノ島の稚児上がりの弁天小僧菊之助、四十八と偽っていたのはその兄貴分である南郷力丸であった。名を明かした二人がここから突き出せと居直って悪態をつくのに対し、幸兵衛は弁天が受けた傷の膏薬代として二十両を差し出す。しぶる弁天を南郷が説き伏せ、二人はようやく腰を上げる。
浜松屋を出た二人は、今日の稼ぎを山分けして悦に入る。道々、騙りの道具として使った重い武家の衣裳を持つのを厭い、二人は坊主が来たら交互に持ちっこする「坊主持ち」に興じながら帰ってゆく。いっぽう、浜松屋では逸当を奥座敷へ案内し、もてなしの支度にかかるのだった。
しかしこの逸当こそ、実は弁天や南郷の頭(かしら)である大盗賊の日本駄右衛門だった。彼らを捕えようとしている捕手たちは、迷子を捜すさまに見せかけ、稲瀬川で秘かに待ち伏せをしていた。
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