操り三番叟 アヤツリサンバソウ

観劇+(プラス)

執筆者 / 阿部さとみ

三番叟って何?

三番叟とは、能「翁」に登場する老体の神の一人。三番目の叟(=老人)の意味で、元は三人の老人が舞うものだったことに由来する説や、千歳、翁に次いで三番目に出る老人とする説などがある。能「翁」は、能狂言の世界では神事として扱われる神聖な曲。演者が老体の神に扮して舞う、いにしえの儀式を今に伝えている。日本各地の民俗芸能で古くから行われていた、五穀豊穣を祈る儀式的な芸能が能狂言と結びついたもの。能では翁と千歳はシテ方が舞い、三番叟は狂言方が舞う。後に人形浄瑠璃や歌舞伎にも取り入れられ、「三番叟物」と呼ばれる祝儀性の高い演目として扱われた。かつては一日の興行の最初に、儀礼的に非公開で行われる慣習があった。現在でも、劇場のこけら落としには必ずといっていいほど上演される。

三番叟物(さんばそうもの)

能の「翁」では、神聖な翁の舞が主となるが、歌舞伎の世界では、軽妙な三番叟に人気が集まり、三番叟に重点を置いた作品が数多く作られた。二人の三番叟が技を競う「寿式三番叟」(「二人三番叟」とも)、舌を出す「舌出し三番叟」の他、廓情緒に重ねた「廓三番叟」など様々な作品が派生。三番叟物というジャンルを築いている。

マリオネット系の人形の踊り

歌舞伎の中で俳優が人形身(にんぎょうみ)になって演じる特殊な演出がいくつかあるが、いずれも人形浄瑠璃で人形遣いが背後で遣う人形を模したもので、上から吊られる糸操り人形になるのはこの「操り三番叟」だけ。しかも単純に操り人形が踊るという趣向が明るくわかりやすく、誰でも楽しめる。