佐野の商人、次郎左衛門が江戸の土産にと訪れたのは花の吉原。そこで出会った吉原一の花魁・八ツ橋の美貌に心を奪われ、ただ呆然とするばかり。やがて八ツ橋の上客となり、いよいよ身請けすることになる。しかし、八ツ橋には繁山栄之丞という恋人が・・・。板挟みとなった八ツ橋は、済まぬと思いつつも次郎左衛門にきつい愛想尽かし。やがて心を砕かれた次郎左衛門は黙って帰りますが、やがて名刀「籠釣瓶」を手に再び八ツ橋のもとへ。その彼は、刀の光に目を奪われている。
満開の桜が咲き乱れる吉原仲之町に佐野の絹商人・次郎左衛門が下男の治六を伴ってやって来ましたが、目にする光景はどれもまばゆいばかりの華やかさ。しかも国に居る時、錦絵で見た艶やかな花魁道中をまぶしそうに眺めていて、吉原一と全盛を誇る兵庫屋の八ツ橋の花魁道中にぶつかってしまいました。その八ツ橋のあまりの美しさ。次郎左衛門は驚嘆しすっかり心を奪われます。遠ざかる八ツ橋が振り返り、得も言われぬ笑みを浮かべると、次郎左衛門は呆然となり「宿へ帰るが、いやになった」とつぶやきます。
次郎左衛門は優しく実直な人柄ですが、実は人を殺した親の因果のゆえか、あばた面の醜い容貌に生まれついています。それでも江戸に来るたび八ツ橋のもとへ通うと、その綺麗な遊びぶりから人望も厚くなり佐野の大尽と呼ばれ、間もなく身請けという話にまで進んでいきます。故郷の仲間を引き連れて茶屋を訪れた次郎左衛門は上機嫌で、迎えにきた八ツ橋との仲を見せつけます。実は、八ツ橋には繁山栄之丞という浪人者の間夫(まぶ)すなわち恋人がいます。さらに親代わりとも称する釣鐘権八という遊び人が八ツ橋を金づるとしていました。権八は茶屋に申し込んだ大金の借用が叶わぬ腹いせに、八ツ橋が心変わりしたと栄之丞を焚き付け、怒った栄之丞は次郎左衛門と手を切らねばこちらが縁を切ると八ツ橋に迫ります。
八ツ橋を抱える兵庫屋の座敷でにぎやかに遊ぶ次郎左衛門のもとへ八ツ橋がやって来ましたが、その口から出たのは思いもかけぬ愛想尽かし。これまでの親密さとは裏腹に、身請けをされるのは元々嫌なのでお断り、この後は私の所へ遊びに来ては下されるなときつい言葉を浴びせます。突然の愛想尽かしに、次郎左衛門が絞り出すように声を掛けますが、八ツ橋はなおも強い口調で遠ざけます。しらけきった座敷の様子を障子の陰からじっと目詰める繁山栄之丞。彼ゆえに、八ツ橋は心を痛めながら次郎左衛門に愛想尽かしをしたのでした。
それから数か月後、久々に上機嫌で吉原に姿を見せた次郎左衛門。以前と変わらぬ様子に茶屋の女房や店の者たちが歓待します。申し訳なさそうにやってきた八ツ橋は次郎左衛門に詫びました。次郎左衛門は座敷で八ツ橋と二人きりになると運ばれた酒をおだやかに八ツ橋に勧めます。八ツ橋がそんなに沢山は呑めぬと言うところ「この世の別れじゃ、呑んでくりゃれ」と俄かに声を変え、持ち込んでいた刀で八ツ橋を一刀のもとに斬り殺してしまいました。「籠釣瓶は、切れるなあ」その見事な切れ味に次郎左衛門は妖しく目を光らせ感嘆の言葉を漏らすばかり…。
松竹株式会社、国立国会図書館から許可を受けた写真を掲載しています。
当サイトに掲載されているすべての記事・写真の無断転載を禁じます。
©松竹株式会社 / ©国立国会図書館 / © 歌舞伎 on the web. All Rights Reserved.