芦屋道満大内鑑~葛の葉 アシヤドウマンオオウチカガミ~クズノハ

観劇+(プラス)

執筆者 / 水落潔

異類婚姻譚

人間と人間でない者が結婚する話は古くから伝わっている。「狐女房」「鶴女房」などの民話で異類婚姻譚と呼んでいる。そんな話は浄瑠璃や歌舞伎に仕組まれ「葛の葉」以外にも柳の精が女房になって子どもを産む『三十三間堂棟木由来』、桜の精が恋人になる『関の扉』、許嫁の霊魂が鷹の霊力に乗って現れ、子どもをもうける『百合若大臣』など多くの作品がある。封建制度の中で階級が確立していた時代の身分違いの恋の悲劇を、異類婚という民話の世界を借りて描いたもので、その多くは「子別れ」の悲劇が重要な場面になっている。

信太妻伝説ここに注目

「葛の葉」のもとになっているのは「信太妻(しのだづま)」と呼ばれる伝説で、17世紀の説教節や古浄瑠璃の人気曲に仕組まれてきた。一方、陰陽師の安倍晴明は実在の人物で、その超能力の高さは中世の『今昔物語』や『宇治拾遺物語』にも記されている。その能力は人間と狐の化身の間に生まれた出生の秘密にあったと言うのが「葛の葉」伝説である。晴明のライバルとして諸書に登場するのが芦屋道満(道摩)で、この作品は二人の術比べを、形を変えて織り込んでいる。

ケレン演出と狐言葉ここに注目

女房葛の葉と葛の葉姫は瓜二つという設定なので、歌舞伎では二役を早替りで演じる。奥の間になり身の上を語るところでは雷序という狐を表す鳴物を使い、狐手という手の動きだけで山木戸が閉まったり、二枚折がひっくり返ったりするケレン演出を見せる。またカキクケコの音を高く張る狐言葉を使って狐の本性を表現する。

曲書きの技巧

曲書きの手順や演出には様々なやり方があったそうだ。裏文字や左文字は狐を表現する技巧で、中には「恋」の一部をわざと書かず最後に筆を投げて補ったとか、炙り出しの方法で歌を書くやり方もあったそうだ。そのほか様々なケレン演出が記録されている。

清元の『保名』

清元舞踊『保名』は原作二段目の「小袖物狂」を舞踊にしたもので、1818(文政元)年に初演した七変化舞踊の一景。恋人榊の前の死で正気を失った保名が、菜の花が咲き乱れる野をさまよう姿を写している。

竹田出雲

元祖竹田出雲(?-1747)は人形浄瑠璃の竹本座の座本として経営や演出に腕を奮う一方で作者としても活躍した。近松門左衛門の『国性爺合戦』の総合演出のほか『芦屋道満大内鑑』の「二人奴」の段では初めて人形の三人遣いを考案するなど様々な工夫で人形浄瑠璃の黄金期を創り上げた。作者としてはほかに『ひらかな盛衰記』『小栗判官車街道』『菅原伝授手習鑑』などの作品に携わっている。