幼い鶴千代君を守る乳人政岡(まさおか)は、わが子・千松の犠牲を耐えてまで忠義を貫く。敵対する女性たち八汐(やしお)と栄御前(さかえごぜん)の憎々しさ、お家乗っ取りをはかる奸臣仁木弾正の奇怪さ、裁きの場での細川勝元の爽やかさと、多彩な登場人物たちが盛り上げるお家騒動の、彩り豊かな名作。
足利頼兼はお家乗っ取りを企む一味の計略に乗せられ、廓通いの遊興にふけっています。今日も大磯の廓からの帰り道、鎌倉花水橋へと駕籠(かご)でやって来ますが、待ち伏せて討とうとする悪人たちを頼兼は悠然とあしらい、さらに力士の絹川谷蔵が駆け付けてその一味を見事に蹴散らします。
足利頼兼は放蕩(ほうとう)の末隠居を命じられてしまい、家督を相続したのは幼い鶴千代でした。その鶴千代の命を狙ってお家乗っ取りを企む者がいるため、乳人(めのと=乳母)政岡は鶴千代が男を嫌う病気にかかったと偽って男どもを遠ざけ、食事も毒の混入を警戒して自ら用意し、決して出された膳には手を付けさせません。
竹の間にやってきた仁木弾正(にっきだんじょう)の妹・八汐は天井に隠れていた忍びの者を捕えて詮議し、首謀者が政岡であると白状させて政岡を牢へ入れようと謀りますが、そこは鶴千代が毅然と立ち向かい政岡を守りました。
政岡は鶴千代と千松(政岡の子)のために茶釜で必死に飯を炊きますが、幼い二人は空腹に耐えかねます。千松の「お腹がすいてもひもじゅうない」という健気な姿に政岡は涙します。そこへ管領(かんれい=幕府の高官)の妻・栄御前が見舞いの菓子を持ってやって来ます。政岡は鶴千代に手を付けさせるわけにはゆかず、さりとて管領からの下され物を断ることもできません。すると千松が突如駆け寄って菓子をほおばり、その箱を蹴飛ばすと俄かに苦しみ出します。やはり毒が入っていましたが、八汐は証拠隠滅のためすぐさま懐剣で千松を刺しなぶり殺しにします。
千松が息絶えた後、栄御前は秘かに政岡を呼び寄せお家横領一味の連判状を渡します。実は千松が目の前で殺されても顔色一つ変えなかった政岡の様子から、二人を取り替え子にしてまんまと鶴千代を殺させたと栄御前が判断したからでした。
一人になった政岡は、主人のため進んで身替りにという教えを守った千松を褒め讃え、しかし母としての深い悲しみに打ちひしがれます。そして斬りかかってきた八汐を討って恨みを晴らしますが、どこからともなく現われた鼠が大事な連判状をくわえて走り去って行きます。
奥殿の床下では、悪人たちによって遠ざけられていた荒獅子男之助が守護番をしています。連判状をくわえた怪しい鼠を男之助が捕らえようとしますが、しばし立廻りの末、鼠を鉄扇で打ち据え、やがて現われたのは眉間に疵(きず)を負った仁木弾正。つまりこの鼠は妖術で姿を変えた仁木弾正で、取り逃がして残念がる男之助を尻目に不敵な様子を見せ何処ともなく立ち去って行くのでした。
足利家のお家乗っ取りを企む仁木弾正らと、鶴千代を守る渡辺外記左衛門(げきざえもん)らが裁きの場で向かい合っています。山名宗全が乗っ取り企ての証拠を吟味しますが、宗全も弾正らに加担していますので証拠はことごとく退けられ、弾正方の勝利が評決されそうになりますが、そこへ現われたのは細川勝元。そして今度は別の証拠や捺印の際の弾正の不正が質され、評決は一転して外記左衛門方のものとなりました。追い詰められた弾正は外記左衛門に斬りつけますがやがて討たれ、傷を負った外記左衛門も勝元が薬湯を与えてねぎらい、ようやく足利家の安泰を喜び合うことが出来ました。
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