源義経(みなもとのよしつね)は、家来武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)らと逃避行を続ける。北陸道(ほくろくどう)安宅の関で彼らを待っていたのは、関守富樫左衛門(とがしのさえもん)。身を隠しきれない義経、主君を助けようと必死の弁慶、その強い思いにふれる富樫。ぶつかり合う三人の立場と心。終始気の抜けない名場面が続く。
ここは北陸道の関所、安宅の関。鎌倉幕府将軍の源頼朝と不和となった弟の義経は、山伏に変装して陸奥国(むつのくに)へ行こうとしているとの情報がある。義経を捕らえるため、幕府から関守(せきもり)となるよう命令を受けた武士、富樫左衛門は、部下の番卒(ばんそつ)たちとともに警戒している。
源義経と家来の武蔵坊弁慶らの一行が、陸奥国の藤原一族をたよりに逃げのびてくる。義経は源平の合戦で、敵の平家を滅ぼすのに大きな働きをし、後白河法皇から任じられた官職名から判官殿(ほうがんどの)とも呼ばれた。しかしそのためかえって兄にも反逆するつもりがあるのではないかと疑われている。弁慶は比叡山で修行した本物の山伏なので、自分と他の家来は山伏となり、主君の義経は荷物を持つ強力(ごうりき)に変装させて関所を通ろうと計画する。
安宅の関に着いた弁慶一行は、山伏を厳しく調べているから通せないと言われ、富樫たちと押し合いになる。火事で焼けた奈良の東大寺再建のため、各地を回って勧進(寄付)を募っていると言う弁慶に、富樫は「それなら勧進の目的を書いた勧進帳を持っているはずだ、読んでください」と言う。弁慶はありあわせの巻物を広げ、書かれてもいない勧進の目的を考えながら読み上げる。
読み上げを聞いた富樫は、あなたは本物の山伏のようだが、ではついでに山伏のいかめしい格好にはどういう意味があるのか、また「九字の真言」という奥義はどんなものなのか、お聞かせ願えないかと尋ねる。弁慶は尋ねに応じて、山伏が身につけているものは仏の姿をかたどっていてそれぞれ意味があることを述べ、「九字の真言」の使い方を明らかにする。
弁慶の答えを聞いた富樫は感心し、袴や黄金を布施物(寄付品)として渡す。しかし、去ろうとした弁慶一行について行く強力が義経に似ていると番卒が告げ、富樫は一行を呼びとめる。疑いを晴らすため、弁慶は杖を取り、義経を打つ。それは家来として絶対にはたらいてはいけない無礼であった。あえてそうしてでも主君を助けようとする弁慶の姿に富樫は心を打たれ、関所を通る許可を与える。
富樫がいったん去ると、義経と他の家来たちは弁慶の機転をほめ、助かったことを喜ぶ。だが弁慶は主君を打ち叩いた罪にうちひしがれて涙する。その様子を見た義経は手をさしのべてなぐさめ、これまでの戦いのつらさと自分たちの武運のなさを悲しむ。
関を去った一行を、富樫が追いかけてきて、疑ったおわびのしるしとして酒をすすめる。大杯を重ねて酔った弁慶は、昔の恋の話をしてから、比叡山で修行をしていた時に延年(寺院で行われた芸能の一種)の稚児として行った舞を舞ってみせる。
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