「月も朧(おぼろ)に白魚の・・・」おなじみの名せりふに乗ってお嬢吉三(おじょうきちさ)、お坊吉三(おぼうきちさ)、和尚吉三(おしょうきちさ)、三人の白浪(しらなみ=盗賊)が出会い、見えない糸で結ばれた何かがうごき出す。そして江戸の町を背景に親と子が描く人間模様はさらなる展開を見せ、やがて因果応報(いんがおうほう)のさだめのごとく散ってゆく。
幕が開くとここは夜更けの大川端(おおかわばた=隅田川の河畔)。やって来たのはおとせという、夜の仕事で暮らす貧しい少女ですが、前夜の奉公人風の客が金を落としたので大切な店の金と思い行方(ゆくえ)を探しています。そこへ現われた美しい娘はいかにも良家のお嬢様、しかしおとせが「百両」と口にすると実は男と正体を現わして財布を奪い、おとせは川へ・・・。さらにその金を取ろうとした男の刀を奪って「思いがけなく手に入る百両」とほくそ笑みますが、その様子を駕籠(かご)の中からじっと見つめる人物がいます。
駕籠の中の男は「ちょっと待っておくんなせぇ」と声を掛け、なんとその百両を貸してくれといいますがそれは叶わぬ相談。そこで名乗り合ってみれば侍(さむらい)上りのお坊吉三と女装で盗みを働くお嬢吉三、かねてから同じ名前と噂に聞く者同士、ここは引くに引かれず刀を抜いて争います。そこへ割って入ったのが和尚吉三、一枚上手の親分肌でその場をおさめ、この後は三人共に義兄弟の契(ちぎ)りを結びます。そして争いの元となった百両は和尚吉三が預かりますが・・・すでに互いが重い運命の糸で結ばれているということを、まだこの三人は知りません。
和尚吉三の父親は土左衛門伝吉(どざえもんでんきち)と呼ばれる人情厚い爺ですが、娘のおとせが帰ってこないので心配しています(つまり和尚吉三とおとせは兄妹)。そこへ八百屋久兵衛(やおやきゅうべえ)がおとせを伴って訪ねてきました。川に落ちたおとせを危(あや)うく助けたのは久兵衛ですが、一方、久兵衛の息子は奉公している店の百両を持ったまま行方知れずと案じています。ところがなんと、その息子・十三郎は金を失い川へ身を投げようとするところを伝吉に助けられこの家にいるのでした。おとせと十三郎、一目で惚れ合った者同士の再会です。
やがて久兵衛が身の上を語り始めますが、聞けば十三郎は拾い子。実子がいましたが男ながらお七と名付けて女姿で育て五歳のとき行方知れずに。探して歩く帰り道に門前で拾ったのがあの十三郎。それを聞いた伝吉は身を震わせます。実は伝吉の子は双子(ふたご)で、女の子は手元に残し男の子を寺に置いてきた、ということは愛し合う十三郎とおとせが実の兄妹という、いまわしい事実を突き付けられます。また後にわかることになりますが、女姿で育てられ行方知れずになったという久兵衛の息子がお嬢吉三だったのです。
お坊吉三の父は将軍家から預かった名刀・庚申丸(こうしんまる)を何者かに盗まれて切腹、お家は断絶となっています。その刀を盗んだのが和尚吉三の父・伝吉ですが刀を川に落とし、やがて廻りまわって大川端でお嬢吉三が手にした刀が実は庚申丸。一方、百両を手にした和尚がその金を父に渡そうとしますが汚れた金と受け取らず、さらにふとした手違いからお坊の手に入り、伝吉がそれを取り戻そうとしますがお坊に斬り殺されてしまいます。父の身を案じてやって来たおとせと十三郎は変わり果てた姿に悲しみますが、下手人(げしゅにん)の証拠の品を見つけます。
荒れ果てた巣鴨の吉祥院、和尚吉三はここを棲家(すみか)にしています。いまは三人とも追われる身、和尚は召し取られる代わりにお嬢とお坊の二人を差し出せと命じられますが内心は逃すつもりで、その二人もすでにこの寺に隠れています。やがておとせと十三郎が父の悲報を伝え、証拠から思い当たるのは確かにお坊・・・。しかし和尚は若い恋人たち二人を墓場で殺し、その首をお嬢お坊の身替りに仕立てます。あの世でも添い遂げられると信じる二人には、いまわしい真実をついに明かさず、親の仇を討つためと納得させたのがせめてもの兄の思いやりでした。
雪に彩られた本郷火の見櫓。和尚吉三は偽首がばれてすでに召し取られ、木戸はあとの二人を召し取るまで固く閉ざされています。木戸の内と外から人目を忍んでやって来たのはお嬢とお坊ですが、二人が召し取られた時には櫓の太鼓をたたいて木戸を開けるという触書(ふれがき)に気付き、お嬢吉三は櫓に登って太鼓をたたきます。すると木戸が開けられ和尚も捕手から逃れることが出来ました。そこへ八百屋久兵衛が現われ、三人は庚申丸と百両を託してお家再興を願います。さらに追手に迫られた三人は、もはやこれまでと互いに刺し違えて壮絶に果てるのでした。
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