小野小町を口説き落とさんと、高位の僧正遍照(へんじょう)も、色事師の文屋康秀(ぶんやのやすひで)も、モテモテ美男の業平(なりひら)さえも、とても叶わぬ恋の道。喜撰法師(きせんほうし)は祇園のお梶にあっさり振られ、天下を望む大伴黒主(おおとものくろぬし)も小町に本性を見抜かれて…。
典雅な御簾の下がった小町の部屋に、官女たちが控えている。そこへ見事な緋の衣に袈裟をまとった僧正遍照が訪ねてくる。遍照は「落ちての末は芥(あくた)とも、是非に小町と対面」せんとするが、官女たちにさえぎられる。そこに小町が歌を詠むやさしい声が聞こえてくる。姿を現した小町を招き寄せて遍照が口説くが、さらりとうけ流される。官女たちに止められて、「花咲くとうわべに見えぬ茨かな」と嘆いて、しおしおと比叡山へ帰って行く。小町はあとを見送って、悲しげに奥に入る。
賑やかな銅鑼の音と、軽快な清元の曲にのって、下手からバタバタと文屋康秀が走り込んでくるが、強面の官女たちに止められる。安公卿のプレイボーイ・康秀が、「届かぬながらねらいきて……」と身を深草少将の百夜通いになぞらえ、愉快で洒落た歌詞に合わせて、思いの丈を訴える。官女との「恋尽くし」のやりとりなどあり、眼目の端唄の「富士や浅間の煙はおろか、衛士の焚く火は沢辺の蛍、焼くや藻しほの身を焦がす」の踊りになる。しかし小町に面会できず、官女を蹴ちらかして走り去っていく。
長唄の鼓唄※1 「梓弓(あずさゆみ)ひけば元すえわが方へ、寄るこそまされ恋の道」で正面の御簾が巻き上げられると、十二単衣に緋の袴で檜扇をもった小野小町と、老懸(おいかけ)※2 の冠装束に弓をもった在原業平が、天下の美男美女の姿でならび居る。業平は「扇尽くし」でしっとりと優美に小町を口説くが、小町は袖をふりはらって奥に入ってしまう。業平はすごすごと花道へ行き、「詠みびとしらずと帰らるる」でふり返り、なごり惜しそうに余情をのこして、ゆうゆうと帰って行く。
※1三味線を用いず大・小の鼓だけでうたう唄。立唄(首席唄方)が独吟でうたう。
※2武官の冠の左右につけた飾り。馬の尾を用い一端を編んで扇形に開いたもの。冠の緒。(広辞苑より)
舞台は一転して桜が満開の祇園あたりの春景色。「わが庵は芝居のたつみ常盤町」とにぎやかな長唄と清元の掛け合いになり、花道から喜撰法師が桜の枝に瓢箪をさげてやってくる。そこに茶汲み女・祇園のお梶が出てくるので、喜撰が口説きかかる。お梶の手ぬぐいの踊りのあと、喜撰が「チョボクレ」を踊る。お迎い坊主が大勢きて、中央に長柄の傘を立て、全員でにぎやかに住吉踊りとなる。喜撰が肌ぬぎになり、姉さんかぶりで「姉さんおんじょかえ」で悪身(わるみ・ワリミとも)という女のふりで踊る。ふたたび総踊りになり、皆々、庵に帰って行く。
舞台は宮中の庭。「和歌の浦わの藻塩草、浪うちかけて洗わん」の鼓唄で、正面、長唄のひな壇を左右に割って、黒主と小町がのった台を押し出す。黒主は衣冠束帯で笏をもち、小町は十二単衣をぬぎかけ襷がけ。黒主が小町を陥れんがため、小町の詠歌を盗み聞いて万葉集に書きこみ、古歌を盗んで自分の詠歌といつわったと濡衣を着せる。しかし小町が万葉集を水で洗うと、黒主の書き込みは洗い流され、策略が見破られてしまう。小町に天下調伏の陰謀を見抜かれた黒主は、「さすがの小町、よく見あらわした」と本性をあらわし、花四天にとりかこまれる。立廻りになり、二重にあがって大見得で幕となる。
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