廓文章〜吉田屋 クルワブンショウ〜ヨシダヤ

大坂の究極のぼんぼん伊左衛門と廓きってのスター
夕霧太夫、ビッグカップルが織りなす口舌(くぜつ)。
口舌とは恋人たちの口喧嘩のこと。

威勢が良くて、喧嘩っぱやい助六が江戸のアイドルなら、金も力もなくて頼りないけれど愛嬌一杯のだだっ子伊左衛門は上方の愛されキャラ。「それ、あかんやん !」と突っ込みながら、ついつい甘い顔を見せたくなってしまう、母性本能直撃の困った色男。

あらすじ

執筆者 / 飯塚美砂

紙衣(かみこ)

大坂新町の揚屋、吉田屋の表では、若い衆が新年を迎える準備に余念がない。そこへ赤茶けた編笠に紙衣(かみこ)という寒々しい様子の男が現れ、主人に会いたいと言う。ここはそんなみすぼらしい者が来るところでないと皆が寄ってたかって打ったり、叩いたり。そこへ出先から戻った主人喜左衛門(きざえもん)が、編笠の中を覗き込んでみれば藤屋の若旦那伊左衛門(いざえもん)。喜左衛門はあわてて丁重に座敷に迎え入れる。

【左】伊左衛門(片岡仁左衛門) 平成25年5月歌舞伎座
【右】[左から]喜左衛門(片岡我當)、伊左衛門(坂田藤十郎) 平成20年11月歌舞伎座
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奥座敷と千畳敷

伊左衛門は大坂きっての豪商、藤屋の跡取り息子だが、扇屋の夕霧(ゆうぎり)太夫と深い仲で、店の銀七百貫目を入れ揚げ勘当されてしまった。今は文無しで流浪の身。夕霧が伊左衛門を心配するあまり病に伏してしまったとの噂に、零落(れいらく)の身も省みずついついやってきてしまった。喜左衛門は伊左衛門をいたわり、寒かろうと自分の羽織を着せかける。女将(おかみ)のおきさも挨拶に出て、再会を喜ぶ。しかし肝心の夕霧の話題が出ない。さては良からぬ事があったかと妄想して涙ぐむ伊左衛門だが、丁度この店に来ていると聞かされて、いてもたってもいられず千畳敷の座敷を駆け出していく。

【左】伊左衛門(坂田藤十郎) 平成24年12月歌舞伎座
【右】[左から]喜左衛門(坂東彌十郎)、おきさ(片岡秀太郎)、伊左衛門(片岡仁左衛門) 平成25年5月歌舞伎座
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口舌(くぜつ)

やがて戻ってきた伊左衛門、夕霧が別の座敷に出ていると知ってご機嫌斜め。喜左衛門夫婦も手を焼いてしまう。床飾りに繭玉、正月の飾りつけも整った座敷で、夕霧を不誠実だと拗ねるやら恨むやら、一人で悪態をつきまくり、炬燵にもぐって狸寝入りを決め込む始末。そこへ、病鉢巻(やまいはちまき)姿の夕霧がようやく座敷を抜けてやってくる。やっと逢えたと言うのにそこで始まるのは口舌(恋人たちの口争い)。夕霧が涙ながらに伊左衛門の心無い悪口を嘆けば、そこはそれ、疑いも解けて二人はすっかりもとの熱愛同士。 そこへ運び込まれてくる千両箱。なんと実家の藤屋が、伊左衛門と夕霧二人の仲を認め、夕霧を藤屋に迎え入れることにしたという。その身請けの金で、あっというまに座敷には千両箱の山ができた。明日の正月を前に、喜びに沸く吉田屋の座敷であった。

【左】夕霧(坂東玉三郎) 平成25年5月歌舞伎座
【中央】[左から]夕霧(中村魁春)、伊左衛門(坂田藤十郎) 平成20年11月歌舞伎座
【右】[左から]伊左衛門(片岡仁左衛門)、夕霧(坂東玉三郎) 平成25年5月歌舞伎座
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