お屋敷の大姫に仕える御殿女中たちは、若く誠実な中老の尾上と、古株のお局(つぼね)の岩藤との二派に分かれている。謀反をたくらむ岩藤は、大姫に目を掛けられる尾上に嫉妬して辛く当たるが、尾上の召使いのお初が主人をかばう。名高いお家騒動の加賀騒動と「草履打(ぞうりうち)」事件を脚色した、時代劇「大奥」ものの原点。
御館の大姫は、大切にする旭の尊像を、奥女中の総監督役である老女の局(つぼね)岩藤(いわふじ)を差しおいて、若くて気だての良い中老(ちゅうろう)の尾上(おのえ)に預ける。岩藤は剣沢弾正と共謀してお家横領を企む悪人で、姫が尾上を重用するのが面白くない。そこで町人の出で剣術が不得手な尾上に恥をかかせようと、剣術の試合を強要する。ところが尾上の召使いのお初が「私が代わりに勝負します」と名乗り出て、岩藤と対戦して勝利する。恥をかかされた岩藤は、尾上にさらに憎しみを抱く。
尾上はお家の重宝である蘭奢待(らんじゃたい)の香木の預かり役を勤めていた。しかし香箱を開けてみると、蘭奢待がなくなり、あとには何と、岩藤の草履の片方が入っていた。紛失の嫌疑が岩藤にかかると思われたところへ、もう片方の草履が尾上の部屋で見つかったと知らせが入る。岩藤は蘭奢待を盗んだのは尾上で、わざと岩藤の草履を箱に入れて岩藤を犯人に仕立てたと騒ぎ立て、証拠の草履で尾上を打った。罪を着せられ辱められた尾上は、草履を握りしめながら御殿を下がる。
真っ青な顔で戻ってきた尾上を見て、お初は御殿で何かあったと察する。思いつめたように黙りこむ尾上に、お初は「気分転換に浄瑠璃を聞いてはどうか」と明るく話しかけ、「仮名手本忠臣蔵」の塩冶判官のように早まった事をしないようにと、それとなく心配する。しかし尾上はひそかに、文箱に書置きと草履を入れ、実家に届けるようにお初に命じる。仕方なくお初は使いに出る。
夜に烏が啼くのは不吉の前兆と言われる。屋敷を出たお初が途中、岩藤一味の牛島主税と忠義な奴の伊達平との斬り合いに巻き込まれて、もみ合ううち文箱の紐が解け、中から尾上の書置きと草履が出てきた。お初は慌てて屋敷に駆け戻る。
尾上はお初を使いに出したあと、懐剣を胸に突き立てていた。瀕死の尾上の部屋に岩藤が忍び込み、旭の尊像を奪っていく。駈け戻ったお初が虫の息の尾上を抱き起すと、尾上は岩藤に辱められたと打ち明け、旭の尊像も奪われたことを言い残して息絶える。主人の無念をかみしめたお初は、岩藤の悪事を知らせる書置きと草履を持ち、恨み重なる岩藤のもとへと向かう。
雨が降る深夜、邪魔者尾上が死んだ上、尊像も手に入れた岩藤は上機嫌である。そこへお初が現れた。岩藤は「頭痛が起きた」と仮病を使う。お初が「頭痛に効く、特効薬」と言って岩藤の頭に乗せたのは、因縁の草履。岩藤はお初に斬りかかり激しく争うが、ついにお初に討ちとられる。事件は無事落着し、お初は二代目尾上として中老に取り立てられることとなる。
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