戦国の世は、結婚を誓った相手が敵になることも珍しくなかった。夫に従えば、実の父を裏切ることになる。父にそむき、恋しい人の母を看病する時姫のもとに、瀕死の恋人三浦之助が戦場から戻ってきた。恋人は父を殺せという。虚々実々、地獄の戦場に生きる男と女のすさまじい駆け引きと切ない恋を描く。
京方と鎌倉方との争いのさなか。京方の三浦之助が、母長門の病を案じて、傷つきながらも戦場から帰館する。迎えたのは鎌倉方の大将北条時政の娘で三浦之助を慕う時姫。美しい振袖の姫の姿で長門の世話をかいがいしくつとめている。「親に背いて焦がれた殿御」に夫婦の契りをしてとすがりつくが、敵方の娘は妻にできぬ、と三浦之助にはねつけられる。
嘆いた時姫が自害しようとすると、鎌倉方の足軽藤三郎が現われた。藤三郎は、姫を助けたら女房にやると時政の命を受けてきたと姫に言いよる。怒った時姫が斬りかかると、藤三郎は庭先の空井戸に逃げ込んでしまった。
再び自害しようとする時姫を三浦之助がとどめ、父時政を討てば妻にすると難題をもちかける。恋しい人の願いは、実の父を殺すことだった。激しく逡巡する時姫だったが、ついに三浦之助の難題を承知する。親よりも恋を選んだ姫君。
父を殺そうという時姫の決心を聞いた三浦之助が、計略が成功したと空井戸に呼びかけた。思いがけないことに井戸から現れたのは藤三郎ならぬ佐々木高綱だった。実は高綱は、自分とうり二つの百姓藤三郎の命を買い取って、その首を身替わりにしていた。そして自身は藤三郎本人であると思わせ、その証拠として、時政から顔に入墨をされて放たれていたのだった。
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