「スーパー歌舞伎」の記念碑である第一作。
三代目市川猿之助が梅原猛の原作を得て、日本神話の日本武尊(やまとたける)伝説を舞台化し、新たな歌舞伎のジャンルを産み出して記録的な大ヒットとなった傑作。
舞台は大和の国。帝には双子の兄弟の皇子(みこ)がいた。母を早く亡くした兄弟の兄大碓命と弟小碓命(おうすのみこと)、後のヤマトタケルだ。小碓命は武勇に富んだ心優しい19歳の青年。帝の命に従って九州の熊襲征伐に行き、館へ踊り子に身をやつして潜入し、熊襲の国を治める兄タケルと弟タケルを討ち果たす。兄大碓命の役との早替わり、樽を投げ合って宮殿の壁などを壊す迫力十分の大立ち廻りが見どころ。敵であった弟タケルの願いから名前を受け継いだ小碓命はヤマトタケル(大和のタケル)と名乗ることになる。
大和の国へ戻ったヤマトタケルだが帝は次から次へと過酷な使命を言い渡す。兄橘姫(えたちばなひめ)と婚礼を挙げたものの東の蝦夷を征伐するため出立する。その途中、叔母・倭姫と弟橘姫(おとたちばなひめ)が暮らす伊勢の大宮に立ち寄って倭姫に父への真情を訴え、天の村雲の剣という神宝を与えられる。従者タケヒコと共に東国へ旅立ったヤマトタケル。相模の国の焼津では国造ヤイラムから火攻めに合うのだが、神宝雨の村雲の剣で草を薙ぎ払い、逆に火をおこして窮地を逃れる。剣は以後草薙の剣と呼ばれる。ここは赤旗を使った敵の武者と格闘が見もの。野焼きの場面はスピード感に溢れた立ち廻りで圧巻。走水の海上ではタケルを慕って同行していた弟橘姫が荒れ狂う海に船から入水する。海の神にその身を捧げてタケルを救うのだが、二十四枚の畳と浪布を使った場面が効果的な演出である。
壮大なスケールの物語のクライマックスへと向かっていきます。ようやく東国を平定したヤマトタケルは帰還の途中、尾張の国造の娘みやず姫を妻とすることになる。その席でまたしても帝からの新たな役目を伝えられる。都に帰る前、伊吹山の山神を征伐せよというのだ。焼津の闘いを切り抜けた草薙の剣をみやず姫に預けて伊吹山に向かう。しかし神宝の剣を置いてきたのを知った山神はタケル打倒に燃えるのだった。伊吹山に誘い込まれたタケルは白く大きなイノシシと死闘になる。白猪は山神の化身。吹雪の中、姥神は術で大量の雹を降らし、雹に打たれたタケルは致命傷を負いながら辿り着いた伊勢の国・野煩野でついに力尽き、世を去ってしまう。志貴の里で営まれる盛大な葬儀。兄橘姫との間に生まれたワカタケルが日継の皇子と決まった後、誰もいなくなった墓から一羽の白鳥が飛び立つ。天空を高く行く白鳥はタケルの魂だろうか。「天翔ける心、それが私だ!」。場内に響き渡る声が美しく感動的な幕切れとなります。
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