品川の遊所で力士に恥をかかされため組の鳶頭辰五郎。芝神明の芝居前でも、力士と小競り合いが起きるが、怒りの虫をこらえて芝居の太夫元の顔を立てた。しかし相撲の千秋楽を待って押出した鳶の纏(まとい)はもう下ろせない。命をすてて喧嘩だ、喧嘩だ!
品川宿の島崎楼。相撲取の四ツ車(よつぐるま)らと、鳶頭辰五郎らが、隣り合った座敷で飲んでいる。四ツ車の弟子の取的(とりてき、下っ端の相撲取)が相撲甚句を踊るうち、障子を蹴倒して隣座敷に踏み込んでしまう。血の気の多い鳶の藤松が怒って喧嘩になるところを、め組の頭(かしら)辰五郎が収める。しかし、その場にいた四ツ車を抱える侍から、相撲取は士分だから鳶などとは身分が違うと言われ、苦虫をかみころす。
「すわ喧嘩」、の事態を収めた辰五郎だが、恥をかかされた恨みを晴らそうと、八ツ山下の暗がりで四ツ車を待ちぶせする。四ツ車ともみあいになり、尾花屋女房、時廻り、辰五郎、駕で通りかかった焚出し喜三郎の五人が暗闇の中で世話“だんまり”になって、さぐりあう。辰五郎が落とした莨入(たばこいれ)を喜三郎が拾い、喜三郎は辰五郎の心のうちを知る。
め組の持ち場・芝神明境内の芝居小屋では、『義経千本桜』を上演中で大入り。客席で騒いだ無法な酔っ払いをめ組の若い者がつまみ出す。それを止めに入った九龍山や四ツ車とめ組の若い者、辰五郎も一緒に喧嘩になるところを、芝居の太夫元(たゆうもと、興行主)に止められてしまう。
相撲取への意趣返し(いしゅがえし、仕返し)を決意した辰五郎は、兄貴分の喜三郎に暇乞いにゆく。帰宅した辰五郎は酔っぱらったふりでなかなか喧嘩の腰を上げない。女房はその不甲斐なさに愛想をつかして、出ていこうとする。三下り半の離縁状を用意していた辰五郎は、相撲の打出しを待っていたといい、酔い覚ましの水を呑むふりをして女房子供に別れを告げ、喧嘩仕度も勇ましく出かけてゆく。
芝神明町の普請場に勢揃いしため組の連中は、手桶の柄杓で順ぐりに水盃をすると、各々手鍵(てかぎ)を持って、威勢の良い木遣りの掛け声とともに押し出してゆく。
角力木戸前に押し出した鳶と相撲取との大喧嘩になる。ここは舞踊の場面で大勢のなかから順番に前へ出て一場ずつ踊っていく“しぬき”のように、鳶と相撲の様々な喧嘩の場面がつづられ、生きのいい喧嘩っぷりが見ものになる。最後は焚出しの喜三郎が梯子を使って喧嘩の真ん中に分け入って両者を押しとどめる。喜三郎の着る寺社奉行(相撲の管轄)、町奉行(鳶の管轄)二枚の法被(はっぴ)を前にして、さしもの大乱闘も納まるのだった。
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