実際の殺人事件を元に、“観光地”伊勢を舞台に仕立てたご当地サスペンスドラマ。庶民の憧れであった伊勢の風物、夫婦岩に昇る朝日や古市の芸妓の総踊り、旅情を掻き立てる伊勢音頭などをふんだんに盛り込んだ風情のある作品。
伊勢の内宮と外宮を結ぶ参道にある相の山(あいのやま)に、遊女のお岸や仲居たちを連れてやってきたのは阿波の蓮葉(はちすば)家の家老の息子、今田万次郎(いまだまんじろう)。主君から名刀「青江下坂(あおえしもさか)」の探索を命じられているのだが、古市の廓通いにうつつをぬかし、一度は手に入れたその刀を質に入れてしまった。奴の林平の諫めにも耳を貸さず今日も遊びほうけ、刀の折紙(鑑定書)も騙し取ろうとする徳島岩次の悪巧みにひっかかり、折紙をすりかえられてしまう。
万次郎の父今田九郎左衛門(九郎右衛門とされることもある)の命を受けた藤浪左膳は、家来筋に当たる御師(おんし)の福岡貢(ふくおかみつぎ)に青江下坂と折紙を探し出すよう申し付ける。貢は万次郎を伴い二見ケ浦の知人の元へ向かう。一方、騙されたと知った奴の林平は、お家乗っ取りを企む藩主の弟蓮葉大学から岩次に宛てた密書を持つ杉山大蔵と桑原丈四郎を見つけて夜道を駆け出していく。林平は密書を奪い取るが、肝心の宛名と差出人の部分は破れ、大蔵の手元に残ってしまった。
万次郎を連れて二見ケ浦に来かかった貢は、林平に追われて来た大蔵と丈四郎と闇の中で出会い、密書の残り半分を奪い取るが、暗くて宛名が読めない。しかし二見ケ浦に朝日が昇ったので、林平の持つ密書と合わせてかざし、宛名と差出人の名を確かめる。その密書には悪事の全容が記されていた。
貢の養父、御師の福岡孫太夫(ふくおかまごたゆう)の宅では弟の彦太夫が太々神楽(だいだいかぐら)をあげている。彦太郎の息子正太夫が貢の許嫁榊(さかき)に言い寄っている所へ、貢を訪ねてきたのは古市の遊女お紺。そこへ貢の叔母が手に入れた青江下坂を届けに来て、この刀のために貢の祖父、父は命を落とし青江家が没落したことを語る。
数日後、油屋に万次郎がやってくるが、迎えたお岸は人目を避けるため万次郎を大林寺へ行かせる。青江下坂を持って入れ違いにやってきた貢は、万次郎を油屋で待つことにする。そこへ出てきたのは古株の仲居、万野(まんの)。わざと貢を邪険に扱い、貢の恋人の遊女お紺にも会わせようとしない。どうしても店で待つのなら替り妓(かわりこ、代理の芸妓)を呼べと言い出す。お紺一筋の貢だが、やむなく承知すると、今度は刀を預けろと言い出す。廓の習慣とはいえ、信用ならない相手に大事の刀を渡すわけにはいかない。当惑するところへ、以前の家来筋にあたる料理人の喜助が、自分が預かろうと助け船をだす。
事の成り行きを盗み聞いていた徳島岩次は、ひそかに刀掛けの青江下坂の中味をすり替える。それを見た喜助は、岩次が違う鞘に入れた本物の青江下坂を貢に渡すことにする。一方、貢のところへ替り妓としてやってきたのは、容姿はいまいちだが気のいいお鹿。以前から貢に岡惚れで、金まで用立てたと言う。しかし貢は受取った覚えはない。いらだった貢は万野を呼び出だす。
貢とお鹿に問い詰められても、そこは百戦錬磨の古だぬきで、万野はのらりくらりと嘘をならべ、逆に貢に恥をかかせる。しかも奥から現れたお紺までが、お鹿を呼んだ不実をなじり、満座の中で貢と縁を切ると言い出す。思いもよらぬお紺の愛想づかし。お鹿と万野にさんざんに追い詰められた貢は逆上する。重なる恥辱を必死にこらえて、貢は喜助から預けた刀を受け取り、油屋を出てゆく。
貢の消えた座敷では、お紺が自分に言い寄っていた岩次になびくふりをして、折紙を取り返す。一方、岩次に加担する万野は貢が本物の青江下坂を持って行ったと知り、あわてて追いかける。しかし貢も、違う刀を渡されたと思い、駆け戻ってきて万野と刀を渡せ渡さぬの口論になる。ものの弾みで青江下坂の鞘が割れて、万野は肩先を斬られる。血を見て狂ったのは貢か妖刀青江下坂か。悲鳴を上げる万野。貢はもはやこれまでと万野を斬り殺し、来合わせたお鹿や岩次にも次々と刃を振り上げていく。
芸妓たちがにぎやかに伊勢音頭を踊る油屋の奥座敷。その庭先に血刀を持った貢が姿を現わし、つぎつぎと人々に斬りつけていく。追ってきたお紺は、斬ろうとする貢を押しとどめ、折紙を差し出す。先ほどの愛想づかしは、これを手に入れるための芝居だったのだ。お紺の言葉に我に返った貢だったが、これだけ人を殺しては生きてはいられない。腹を斬ろうとするところへ喜助が駆けつけ、貢はようやく手に持つ刀が本物の青江下坂だと気づく。刀と折紙の二品揃う上からは、国表に届けようと勇み立つ貢であった。
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