絶海の孤島にただ一人残ることを決心したのは自分自身だが、この世への思いはあきらめ切れない。孤独の叫びが胸にせまる、時代や国を超えて心に訴える人間ドラマ。
薩摩の国から遠く離れた孤島鬼界ケ島は流人の島。全盛をきわめる平清盛への謀略のため鹿ケ谷の別荘へ集った罪で俊寛僧都(しゅんかんそうず)が丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね)、平判官康頼(へいはんがんやすより)とともに流罪にされて早や3年がたった。都で権力を誇った暮らしとは程遠い衣食もままならない生活、三人のほかには語り合う人もいない。いつの日か許されて都に帰ることだけを唯一の希望とする毎日である。しかし、今日は年若い成経がうれしい知らせを持ってきた。海女の千鳥を妻に迎えるといって連れてきたのである。「りんにょぎゃってくれめせ」と挨拶する千鳥。俊寛たちはこれからは4人で家族同様、暮らしていこうと、盃代わりに貝殻、酒のつもりの清水でささやかな祝いの宴を始める。
海原のはるかかなたに大きな帆影が見える。都から待ちに待った流人の都への帰還を許す赦免船がやってきたのだ。転がるように浜へ出て出迎える俊寛、康頼、成経と、千鳥の四人。しかし赦免の使者瀬尾太郎兼頼(せのおのたろうかねやす)が読み上げる赦免状に俊寛の名前はない。清盛は、俊寛一人だけは許さず島に残すつもりなのだ。嘆くところへ、もう一人の使者、丹左衛門尉基康(たんさえもんのじょうもとやす)があらわれ、重盛と教経の温情で俊寛も連れ帰るという赦免状を読み上げる。
三人は喜んで千鳥を伴って船に乗り込もうとする。すると瀬尾はすげなく、赦免状に名の無いものは乗せられないと千鳥の乗船を阻み、俊寛には、俊寛の妻東屋(あずまや)が清盛の意に逆らい首を落とされたと冷酷に告げる。三人は舟に追い込まれ、残された千鳥は「鬼界ケ島という名の島だが鬼はいない、鬼がいるのは都だ」と嘆き悲しみ、頭を岩に打ち付けようとする。
それを見て俊寛は、もはや妻のいない都に戻ろうとは思わない、自分は島に残るので代わりに千鳥を船に乗せてほしいと頼むが、瀬尾は聞く耳を持たない。ついに俊寛は瀬尾の刀を奪い切りつけ、二人は刃を交わす。丹左衛門はこれを私情の争いであるとして周囲に手出しを禁じ、俊寛と瀬尾の一騎打ちを見守る。ようやくのことで瀬尾を討ち果たした俊寛は、上使を斬った罪で再度鬼界ケ島の流人となる代わりに、千鳥を都へ連れていくよう願う。
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