シバラク

罪なき人たちがピンチになった時、颯爽と現れるスーパーヒーロー。
元禄歌舞伎の楽しさを今に伝える痛快な一幕。

日本のヒーローものの元祖ともいうべき作品。ストーリーは単純明快、超人的な活躍を見せる主人公に、江戸の庶民も熱狂しただろう。舞台に溢れるおおらかさ、見た目にも華やかな道具や扮装、バラエティに富んだ役々などを理屈抜きに楽しもう。

あらすじ

執筆者 / 橋本弘毅

善人たちのピンチ

鎌倉は鶴岡八幡宮の社前で、清原武衡と加茂次郎義綱がそれぞれ奉納するものをめぐって対立している。すでに天下人になった気でいる武衡は、自分の家来になるよう義綱を脅し、義綱の許嫁・桂の前にも自分になびくよう迫る。二人が拒絶すると、怒った武衡が全員の首を刎ねるよう命じ、義綱たちは絶体絶命の大ピンチに。

【左】清原武衡(中村富十郎) 平成16年5月歌舞伎座
【中央】[左から]局常盤木(市川右之助)、家老宝木蔵人貞利(市村家橘)、大江上総介正広(中村萬太郎)、加茂三郎義郷(坂東亀寿)、月岡息女桂の前(市川門之助)、加茂次郎義綱(大谷友右衛門) 平成21年5月歌舞伎座
【右】[左から]埴生五郎助成(大谷桂三)、荏原八郎国連(澤村由次郎)、足柄左衛門高宗(坂東亀寿)、東金太郎義成(片岡市蔵)、成田五郎義秀(河原崎権十郎) 平成22年7月新橋演舞場
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スーパーヒーロー登場

その時、どこからともなく「しばらく」の大音声が響き、罪のない人たちを颯爽と救うヒーロー・鎌倉権五郎が花道から登場し、先ず花道にどっかと座り大音声で「つらね」と呼ばれる先祖由来の文句をちりばめた自己紹介を豪快に述べる。そのいでたちは戦隊モノ並みの大迫力の重装備。武衡に味方する人たちは、突如現れた邪魔者を追い払おうとするが、みな軽くあしらわれてしまう。権五郎は悠然と舞台中央まで進み、豪快な「元禄見得」を見せる。

【左】鎌倉権五郎景政(市川團十郎) 平成22年7月新橋演舞場
【右】[左から]東金太郎義成(市川團蔵)、成田五郎義秀(市川男女蔵)、鎌倉権五郎景政(市川團十郎)、清原武衡(市川左團次) 平成15年5月歌舞伎座
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まさかのどんでん返し

権五郎は武衡に向かい、無礼な態度の数々を非難する。さらに奉納する宝刀は偽物で謀反の願いをかけていることを暴き、義綱が紛失した重宝も武衡が持っているはずだと追及する。ここで武衡の一味と思われた女性・照葉が、武衡のもとにあった重宝を自分がこっそり持ち出したと言い出す。照葉は実は権五郎のいとこで、悪人方の一味と見せかけて重宝を探索していたスパイだったのだ。重宝が義綱に渡され、義綱一行は権五郎に後を託して帰路につく。

那須九郎妹照葉(中村福助) 平成22年7月新橋演舞場
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大団円

武衡は再び家来たちに命じて権五郎を襲わせるが、権五郎は巨大な太刀を抜きはなち、あっという間に片っ端から斬り捨てていく。圧倒的な強さを目にした悪人たちはもはやなすすべなく、権五郎は意気揚々と花道を引きあげる。

鎌倉権五郎景政(市川海老蔵) 平成21年5月歌舞伎座
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