天衣紛上野初花~河内山と直侍 クモニマゴウウエノノハツハナ~コウチヤマトナオザムライ

狡猾な悪党か弱者の味方か?どこか憎めぬ河内山宗俊が、わがまま大名をやりこめる。御家人くずれの直侍(なおざむらい)は江戸から逃げるその前に、恋人にひと目逢おうと雪夜を急ぐ。

「天保六花撰」と謳われたアウトローたちの生き様を描く世話物の傑作。江戸城で大名や家臣たちにお茶を出すお数寄屋坊主の河内山は、立場を利用してのゆすりたかりがお手のものだが、人助けのために臆することなく大名屋敷に乗り込み、鮮やかにだまし、切ってみせる大啖呵も見もの聴きもの。ところ変わって入谷のひなびたそば屋に顔を見せるのが、お尋ね者の直次郎。恋人の三千歳(みちとせ)に逢って江戸を離れる心づもりだが、三千歳はいっしょに連れていくか、それが叶わぬなら殺してという。哀切極まる清元節に乗せて描かれる色模様。

あらすじ

執筆者 / 金田栄一

娘を救い出せば、なんと二百両の大仕事

河内山宗俊は江戸城で茶の接待役をするお数寄屋坊主ですが、将軍様を笠に着て何かと良からぬことを企てるという、とかくいわく付きの人物。その河内山が質店の上州屋にやって来ますと、店は何やら取り込みの様子。聞けば店の娘が腰元奉公に出ている大名家で殿様の妾になれと強要され、閉じ込められてしまったとか。何とか救い出したいが、相手が大名ではとても叶わぬと打ち明けられます。これを聞いた河内山は手付にまず百両、首尾よく救い出せばさらに百両、都合二百両という破格の大金で娘の救出を請け負います。

【左】[左から]河内山宗俊(中村吉右衛門)、後家おまき(中村吉之丞)、和泉屋清兵衛(中村歌六) 平成20年9月歌舞伎座
【右】[左から]後家おまき(中村魁春)、和泉屋清兵衛(中村歌六) 平成24年9月新橋演舞場
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大胆にも、上野寛永寺の高僧と名乗った河内山

松江出雲守の屋敷、腰元の浪路はすでに殿の手討ちに遭う覚悟を決めています。そこへやってきたのは、法衣をまとい東叡山(=上野寛永寺)の使僧になりすました河内山。浪路の一件が老中まで聞こえるとお家の興廃にもかかわるぞ、とやんわり脅します。家中は大騒ぎとなり、首尾よく娘を帰参させた河内山ですが、帰り際の玄関先で重役の北村大膳にお数寄屋坊主の河内山と見破られてしまいます。証拠は高頬のほくろ。しかしそこで慌てる河内山ではありません。直参である自分が喋れば、松江出雲守のスキャンダルが将軍様にも伝わるが、それでもいいのかと啖呵を切ります。家臣たちはやむなく河内山をあくまで寛永寺の使僧として送り出すほかありませんでした。どう転んでもこちらの勝ち、にやりと笑う河内山は「馬鹿め!」と喝破して、意気揚々と引き上げます。

【左】[左から]腰元浪路(市川高麗蔵)、近習頭宮崎数馬(市川門之助)、松江出雲守(中村梅玉) 平成21年9月歌舞伎座
【中央】[左から]松江出雲守(中村錦之助)、使僧北谷道海実は河内山宗俊(松本幸四郎) 平成22年11月新橋演舞場
【右】[左から]使僧北谷道海実は河内山宗俊(中村吉右衛門)、近習頭宮崎数馬(中村錦之助)、松江出雲守(中村梅玉)、家老高木小左衛門(中村又五郎) 平成24年9月新橋演舞場
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直侍がそば屋で耳にした三千歳の行方

雪の降りしきる寂しい夜更け、人影もない入谷にやってきたのはお尋ね者となっている片岡直次郎。見つけたそば屋に駆け込み熱いそばと酒で暖を取りますが、続いて入ってきたのは顔見知りの按摩の丈賀。その話から恋しい花魁の三千歳がわずらって、近くにある抱え主大口屋の寮(別荘)で療治をし、丈賀が毎晩のように通っていると知れます。直次郎は三千歳への手紙をしたため、丈賀に託します。直次郎は今夜にも逢いに行くつもりです。しかし偶然出会った仲間の暗闇の丑松は、自分の罪と引き換えに直次郎を訴人しようと駆けてゆきます。

【左】片岡直次郎(尾上菊五郎) 平成22年11月新橋演舞場
【右】[左から]按摩丈賀(澤村田之助)、片岡直次郎(尾上菊五郎) 平成22年11月新橋演舞場
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忍び逢う二人に迫る危機

雪の中、直次郎が人目を忍んで大口寮の庭の戸口に立ちました。裸足に下駄の直次郎の肩に雪がこぼれかかります。丈賀に渡した手紙が届いていれば戸の錠が開いているはず。やがて思い通り招き入れられたところへ、待ち焦がれた三千歳が姿を見せました。三千歳の病も直次郎が訪ねてきてくれぬが故の恋の病です。数々の悪事が露見してお尋ね者となった直次郎は遠くへ身を隠すためこれが今生の別れと決めていますが、三千歳はいっそのことお前の手で殺してくれとせがみます。もはや未来のない恋人たちの耳に、隣座敷から清元節の哀切な音が聞こえてきます。そこへ大勢の捕手が現れました。直次郎は垣根を乗り越え、「もうこの世では逢わねえぞ」と三千歳に言い残して雪の中を逃げて行きます。

【左】[左から]大口抱三千蔵(中村時蔵)、片岡直次郎(尾上菊五郎) 平成22年11月新橋演舞場
【右】[左から]片岡直次郎(尾上菊五郎)、大口抱三千蔵(中村時蔵) 平成22年11月新橋演舞場
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