忍夜恋曲者~将門 シノビヨルコイハクセモノ~マサカド

観劇+(プラス)

執筆者 / 阿部さとみ

将門の娘の名は滝夜叉(たきやしゃ)

数々の芝居や小説になった将門の息子や娘。息子は将軍太郎良門という名で一定していた。娘の方は様々な名だったのが、大流行した山東京伝の読本『善知鳥安方忠義伝(うとうやすかたちゅうぎでん)』に登場した将門の娘が滝夜叉であったので、以後その名が定着したという。

原作『善知鳥安方忠義伝』の中身

本曲の原作『善知鳥安方忠義伝』では、滝夜叉は相馬の内裏(だいり、御所のこと)の滅亡時に十四歳。乳母に助けられ陸奥へ逃れるが、十六歳で出家する。法名を如月尼(にょげつに)といった。妾腹の弟平太郎(へいたろう)は天下を狙い、蝦蟇の精霊肉芝仙(にくしせん)と手を結び、姉に妖術をかける。すると如月尼は悪心に変じて還俗。妖術を得て謀反の中心人物となる。そして相馬の御所に隠れ住み、味方の兵を集めていた。そこへ文武両道に優れた美男子・大宅太郎光圀が現れ、偽って味方になる。滝夜叉は光圀の嘘を見破るが、既に軍勢に取り囲まれ旧御所は炎上。滝夜叉の野望は潰え、潔く自害すると妖術の効力が失せて、菩提心に立ち返って果てる。

反体制の王女のよそおいここに注目

滝夜叉は姫でありながら妖術使いというのが格好良く、扮装からして異色を放っている。一見、傾城の姿をしていても、凄味を持った女の役柄に使われる「とさか」のついた下げ髪や、裲襠の蜘蛛の巣、破れ御簾の模様、中に着込んでいる素網など、他の女性とはひと味も二味も違い、反体制の王女といった趣がそこここに見られ、美しくも妖しい魅力がある。

屋体崩し(やたいくずし)ここに注目

歌舞伎の大道具の仕掛けのひとつ。舞台に飾られた大きな館が、ガラガラと崩れ落ちる。この作品では、古怪な古御所の屋根を支えていた柱が外れ、崩れ落ちた屋根の上に主人公滝夜叉が現れる。この伝統的な技法は、近代の少女歌劇のレビューやテレビのバラエティー番組などに影響を与えている。