色彩間苅豆~かさね イロモヨウチョットカリマメ~カサネ

愛した人は、かつて母の恋人だった。
そして突然に、美しい顔が変わり果て…。
男と女の心のすれ違いに深い因果が絡む舞踊劇。

清元の名曲に乗せて繰り広げられる恋模様と惨劇。少女かさねは壮年の男との恋に溺れたが、世慣れた男にとっては遊びでしかない。男は実は母の密通相手で父を殺した犯人だった。
何も知らないかさねの身の上に起こる恐ろしい因果の物語。

あらすじ

執筆者 / 阿部さとみ

一緒に死のうと約束して

夏の雨上がりの夜。奥女中のかさねが一人暗い夜道を急いでいる。同じ家中の与右衛門と深い仲になっていたが、男は「死ぬ」と書置をして消えてしまったのだ。ようやく木下川堤(きねがわづつみ)で巡り会うと、かさねは「一緒に死のうと約束していたのに」とすがるが、与右衛門は訳あって、一緒に死ねないと言う。当時同じ家中での恋愛は許されないものだったが、かさねは与右衛門の子を身ごもっていた。

【左】百姓与右衛門実は久保田金五郎(中村橋之助) 平成25年8月歌舞伎座
【右】[左から]腰元かさね(中村時蔵)、百姓与右衛門実は久保田金五郎(市川染五郎) 平成23年6月新橋演舞場
ページトップへ戻る

恋の喜び、心中の決意

かさねはなおもかき口説く。去年のお盆の行事で知り合ったこと、それから思いを交わしてめくるめく時を過ごしたこと、与右衛門が当時人気の役者に似ているので、その錦絵を大切に眺めていることなどを語る。やがて懐妊を恥ずかしそうに知らせると、与右衛門がようやく心中を承諾する心を見せ、互いに遠くに居る親に先立つ不孝を詫びて泣き伏す。

[左から]腰元かさね(中村時蔵)、百姓与右衛門実は久保田金五郎(市川染五郎) 平成23年6月新橋演舞場
ページトップへ戻る

漂いくる髑髏

不気味な風音と共に、卒塔婆に乗って眼窩にするどい鎌がつき刺さった髑髏が川を流れてくる。与右衛門が髑髏を取り上げ見れば、卒塔婆には「俗名・助(すけ)」と書かれていた。ギョッとした与右衛門が卒塔婆を二つに割ると、かさねは突然足が痛んで倒れ、驚いた与右衛門が鎌を引き抜いて髑髏を割ると、かさねは顔を押さえて藪の中に倒れ込む。

ページトップへ戻る

闇夜の立廻り

暗闇の中、捕手(罪人を召し捕る役人)が現われ、与右衛門を捕らえようとして立廻りになる。清元の艶麗な曲と名文句が聴かせどころで、与右衛門の立ち姿の格好良さを見せる場面でもある。争ううちに捕手が取り落とした手紙は、なんと与右衛門の逮捕状であった。わずかに雲が切れた月明かりの下、与右衛門が手紙をすかし読む場面が見どころ。捕まることを恐れて、立ち去ろうとする与右衛門をかさねが引き留める。

百姓与右衛門実は久保田金五郎(中村橋之助) 平成25年8月歌舞伎座
ページトップへ戻る

かさねの変貌

かさねは与右衛門が手にしているのは他の女からの手紙だろうと疑い、自分を騙したのかと与右衛門に詰め寄る。与右衛門はかさねの顔が醜く変貌したことに慄くが、かさねは自分の姿の変化に気づいておらず、不自由になった右足を引きずりながら恋心を訴える。もしも奥女中をやめて与右衛門と夫婦になって町で暮らせたら、どんなに嬉しいだろうと、二人の未来を思い描いていたのにと嘆くかさねの顔は醜くゆがんでいる。

[左から]腰元かさね(中村福助)、百姓与右衛門実は久保田金五郎(中村橋之助) 平成25年8月歌舞伎座
ページトップへ戻る

めぐる因果

与右衛門はたまらず、かさねの背後から鎌で斬りつける。そして嫌がるかさねに鏡を突き付け、変わり果てた顔を見せつけた。与右衛門はかさねの母親と密通しその夫である助を殺したことを告白し、それを知らずに親の仇と深い仲になったかさねの因果を語る。与右衛門は、助の断末魔の姿がかさねに重なって見えるのだといい、かさねの変貌は因果の報いだという。

[上から]百姓与右衛門実は久保田金五郎(松本幸四郎)、腰元かさね(尾上梅幸) 昭和47年5月歌舞伎座
ページトップへ戻る

かさねの最期

かさねは仇なる恋に迷ったその身を嘆き悲しみながらも、血みどろになって与右衛門を追いかけ、壮絶な立廻りの末、ついに土橋の上で殺される。与右衛門は逃げていくが、怨霊となったかさねの霊力で引き戻される。連理引(れんりびき)という見えない力に翻弄される演技が与右衛門役者の見せ場でもある。

【左】[上から]百姓与右衛門実は久保田金五郎(十五代目市村羽左衛門)、腰元かさね(六代目尾上菊五郎) 昭和18年11月歌舞伎座
【右】[左から]百姓与右衛門実は久保田金五郎(中村橋之助)、腰元かさね(中村福助) 平成25年8月歌舞伎座
ページトップへ戻る