二人椀久 ニニンワンキュウ

あなたに夢で逢えたなら、嬉しい心と心を添わせ、ふたりで踊ろう。
恋に生き、恋に狂った優男が見る夢の世界。

椀久が、焦がれる恋人の遊女松山のまぼろしと出会い、桜花の下で舞い踊る。
しかし幻は儚くかき消えてしまう…。連れ舞が美しい舞踊。甘さと切なさを湛える名曲。

あらすじ

執筆者 / 阿部さとみ

さまよう椀久

場面はどことも知れぬ、松の大木のある海辺近く。月がうっすらと照らすだけの夜道を男が一人やってくる。彼の名は椀屋久兵衛、通称を椀久という大坂新町の豪商だ。新町の遊女・松山と深くなじみ、豪遊を尽くしたために、親から勘当され、髻(もとどり)を切られて座敷牢に閉じ込められたが、松山恋しさのあまりに発狂し、牢を抜け出してさまよい歩いている。親の意見も耳に入らず、恋に焦がれた我が身を振り返り、松山に逢いたいと祈るうちにまどろんでしまう。

[左から]椀屋久兵衛(市川染五郎) 平成25年3月新橋演舞場
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松山の思い

どこからともなく松山が姿を現し、椀久に語りかける。背景にはいつしか桜が咲いている。松山は今をときめく身でも、遊女の身は籠の鳥同様に自由にできないので、思うように貴方と逢えないのが恨めしいと切ない胸中を訴える。そして椀久がかつて着ていた羽織を身に着け、片袖を椀久だと思って眺めているのだという。

【左】[左から]松山太夫(坂東玉三郎) 平成26年12月歌舞伎座
【右】[上から]松山太夫(片岡孝太郎)、椀屋久兵衛(片岡仁左衛門) 平成17年2月歌舞伎座
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恋した日々

場面はさらに明るくなり二人はかつての楽しい思い出を再現。仲良く酒を酌み交わす様や痴話げんかなど二人の甘い仲を描写する。椀久が「闇夜が好きだ」と言えば、松山は「月夜の方が良い」とすねてみせる可愛い場面もある。やがて『伊勢物語』にある在原業平と紀有常の娘の有名な恋歌を二人でしっとりと舞う。

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踊り興じて

思いが高まるにつれて、眼目の二人のテンポのよい踊りになる。かざした手をヒラヒラとさせながら、互いに前後左右に入れ替わりリズミカルに展開する浮き立つシーン。「按摩けんぴき」という初演当時流行した歌や「お江戸町中見物さまの…」と、江戸の観客へのお礼の言葉も盛り込まれた歌詞に、三味線の音色が軽快に加わり、振りと曲の織りなす間の妙味が楽しめる。

【左】[左から]松山太夫(中村雀右衛門)、椀屋久兵衛(中村富十郎) 平成12年9月歌舞伎座
【右】[左から]松山太夫(中村雀右衛門)、椀屋久兵衛(中村富十郎) 平成12年9月歌舞伎座
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夢覚め

華やかな廓遊びの模様を描くうちに、松山の姿が次第次第に遠のいていく。椀久は手を伸ばして松山を腕に抱こうとするが、手は空を切り、松山の姿は掻き消えていく。後には松風の音が聞こえるばかり。一人残された椀久は寂しさにうちひしがれ、倒れ伏す。

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