あらごと 荒事

初代市川團十郎が14歳で『四天王稚立(してんのうおさなだち)』の坂田金時を演じた際、当時流行していた金平(きんぴら)浄瑠璃の影響を受けて豪快な演技を見せたことに端を発した、超人的な強さを持った英雄豪傑の演技あるいはその役柄、演目を指します。顔には勇壮な隈(くま)を取り、大胆な扮装、高く突き抜けるような甲(かん)の声、大仰なセリフ、特大の三本太刀など、どれをとっても写実とは程遠い荒唐無稽な世界ですが、単に強いだけでなく歴代の團十郎と共に魔除けの霊力も信じられ江戸庶民から大きな支持を得ました。江戸の顔見世狂言として必ず演じられた『暫(しばらく)』はその最も典型で、他には『菅原伝授手習鑑』の「車引」の梅王丸、『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』の和藤内(わとうない)、『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』の荒獅子男之助などが代表的なところ。豪傑といっても成人ではなく、角(すみ)前髪が付いている通り子供あるいは少年という約束で、その奔放でわがままな一面も見せます。(金田栄一)

【写真】
『菅原伝授手習鑑』車引 舎人梅王丸(坂東三津五郎) 平成25年1月新橋演舞場