幕開きや幕切れに冴えわたって響く柝の音はいつも観客の心を躍らせます。いわゆる拍子木ですが、歌舞伎では「柝」と呼びます。これを打っているのは狂言作者で、一般演劇における舞台監督にあたり、柝を打つことで担当する演目の幕開きから幕切れまで責任を持って進行をつとめています。開幕近くに楽屋内で準備を知らせる柝が打たれ、客席にも聞こえてくるその音で観客の期待感が高まり、やがてチョンチョン……と柝の音が刻まれて幕が開き、最後に大きく打たれるのが「止め柝」。これが開幕の合図。芝居が山場を終え、幕切れで演技が極まった瞬間にチョーン! と打たれる「柝頭(きがしら)」はまさしく芝居の命。(金田栄一)

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柝(狂言作者 竹柴正二)